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第12話(ブライアン視点)

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 ……どうしてこんなふうに、卑屈で歪んだ考え方をしてしまうのだろう? 助けてもらっているのだから、ただ純粋に、感謝しておけばいいのに。

 しかし俺は、どうしても、『貴族時代の友人たち』を、完全に信用することができずにいた。……いや、『貴族時代の友人たち』だけではない。仕事の都合でよく顔を合わせる商人組合の人間も、酒場の親父も、材木問屋の主人も、町の者も、誰も彼も、信用できない。俺はずっと、人間不信なのだ。

 その原因は、ハッキリしている。

 ローラリアとの婚約を破棄してまで添い遂げようとした『例の彼女』のせいだ。

 名前は、ケイティ。
 ローラリアほど美しくはないが、気立ての良い、優しい娘だった。

 俺は心の底から、すべてを失ってもいいと思うほど、彼女に恋い焦がれ、愛していたというのに、ケイティは、俺の家が没落を始めるのと同時に、まるで潮が引くように、俺の元から離れて行った。

 今でも、信じられない。
 俺はケイティを愛していたし、ケイティも俺を愛していると思っていた。
 二人の間には、間違いなく、『本当の愛』が存在していると信じていた。

 だが、ケイティはいなくなった。

 あれほど信じていたケイティが、いなくなった。

 心の底から信じていた存在が消え去ったとき、人は、何を信じればいいのか?

 ……何も、信じられるはずがない。

 俺は、『信頼』という感情と、『本当の愛』を、同時に失ったのだ。

 いや、違うか。

 失ったのは、『信頼』だけだ。俺とケイティの間に、『本当の愛』なんて、最初からなかったのだから。……『本当の愛』があったなら、ケイティが、離れていくはずがないからな。

 そういうわけで、俺は、女も、男も、老いも若きも、誰も信頼できなくなった。

 信頼のない人生というのは、苦しく、寂しい。

 どれだけにぎやかな街に住んでいても、どれだけ人と接する機会があっても、誰とも関係を深めることができず、結局のところ、山奥に一人きりで住んでいるのと変わらないのだから。

 ……いや、周囲にたくさん人がいる分、余計に自分の孤独を思い知らされるので、山奥で一人きりの方が、ずっとマシかもしれない。

 そして、寂しくて寂しくてたまらなくても、やはり、人を信用することはできない。……俺にとって『人間不信』とは、決して解けることのない呪いのようなものだった。

 皮肉なことに、人を信じない、冷徹なやり口が功を奏したのか、商売はますます上手くいった。羽振りの良くなった俺の周りには、さらに多くの人が集まるようになった。独身で、周囲に女の影もない俺に対し、自分の娘を嫁がせようとする有力商人が何人もいたが、俺はそのすべてを断った。
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