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第11話(ブライアン視点)

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 俺は、ずっと霧の中をさまよっている。

 と言っても、現実に、山や森で遭難したというわけではない。たとえ話だ。

『自分の心』という霧の中。どこにあるのかもわからない『本当の愛』を求めて、ずっと、ずっと、さまよっている。

 ローラリアが、他の貴族たちに対し、俺を許すように言ってくれたあの日から、そろそろ二年がたつ。……貴族たちは、表立って俺をつまはじきにすることはやめたが、それでも、一度失った信用というものはそう簡単には回復せず、長い間、もだえ苦しむような日々が続いた。

 しかし、時間が経つうちに、貴族たちの態度も次第に軟化していき、今では、少なくない貴族が、昔と変わらない態度で、俺を受け入れてくれるようになった。……すべて、ローラリアのおかげだ。身勝手な理由で婚約を破棄した俺を許してくれた彼女の慈悲を、俺は生涯忘れない。

 ただ、当然と言えば当然だが、すべてが元通りになったわけではない。

 婚約破棄の際、俺を大いに責めた父上や母上とは、いまだにギクシャクした関係だし、大喧嘩になった弟とは、ほとんど絶縁状態だ。俺たち家族の間には、まるで、目に見えない強固な壁ができてしまったかのようだった。……恐らく、もう二度と、家族そろって食事をするようなことはないだろう。

 ……昔は、仲の良い家族だったのだがな。

 俺は、家族からの愛情を、完全に、失ってしまった。
 仕方ない。全部、俺のせいだ。身勝手で浅はかな、俺のせいだ。

 色々と悩んだが、家族に対する贖罪として、俺は、次期当主の座を弟に譲り、貴族としての地位を捨て、家を出た。そして、町に小さな事務所を構え、商人の真似事を始めた。

 商売は、順調だった。

 もう貴族ではなく、すっかり商人となった俺だが、貴族時代の友人たちが、色々と融通してくれるおかげで、着実に業績を伸ばすことができたのだ。

 ……これもすべて、ローラリアのおかげだ。

 ローラリアが貴族たちに『ブライアンを許してあげて』と言ってくれなければ、いま述べた『貴族時代の友人たち』は、きっと今でも俺を蔑み、親身になって助けてくれることなどなかっただろうからな。

 いや、実際のところ、『貴族時代の友人たち』の俺に対する感情は、今でも、『蔑み半分』『憐れみ半分』といったところだろう。人間は、一度軽蔑されたら、ちょっとやそっとのことでは、尊敬などしてもらえない。

 彼らが色々と俺を助けてくれるのは、恐らく純粋な友情ではなく、家族との繋がりが消え、貴族の身分をも捨て去った俺に対する『憐れみの施し』に違いない。薄汚れた哀れな野良犬に餌をやるのと一緒だ。
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