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第9話
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物憂げに溜息をもらす私を見て、アークハルトお兄様は飲みかけのお茶を噴き出しそうになった。そして、端正な口元を押さえ、今も笑い続けている。
「なに? どうしたの、お兄様。なんで笑うの?」
「いや、だって、お前が、『本当の愛』だなんて、思春期の女の子みたいなこと言うから」
「な、なによ。私が『本当の愛』を語ったら、おかしいって言うの?」
「違うよ。ふふ、気を悪くしたなら謝る。ふふ……本当の愛……ふふふっ」
「まだ笑ってる。もういいわよ、お兄様なんか知らないから」
「すまんすまん、悪かった。僕が全面的に悪い、謝るよ。……なあ、ローラリア、愛に『本当』も『嘘』も、あると思うか?」
「えっ?」
「もちろん、結婚詐欺師が相手を騙そうとして語る愛は、真っ赤な嘘であり、偽物だと思うが、人が人を想う愛情――純粋な好意には、本当も嘘もないと、僕は思うね」
「…………」
「穏やかに続く愛もあれば、激しく燃え上がり、いずれは消えてしまう愛もある。そして、消えたかと思えば、再び輝きだす愛もある。それらは決して、どれかが本当で、どれかが嘘と言うことはない。どれも、『本当の愛』なんだよ。たとえ最終的には破滅を迎えた愛だとしても、一時でも誰かを愛おしく思えたという気持ちは、本物なんだから」
「それは……そうかもしれないけど……じゃあ、なんで『本当の愛』だなんて言葉があるの?」
「ただの言葉遊びさ。『本当の愛』『真実の愛』『究極の愛』……みんな、そういう聞こえの良い言葉が好きだからね。でも、さっきも言ったけど、思春期の子供ならともかく、だいの大人が、いつまでもそんな『幻想の言葉』に惑わされて、思い悩み、素敵な異性との恋や出会いを純粋に楽しめないようじゃ、どうかと僕は思うけどね」
「『幻想の言葉』に惑わされる、思春期の子供みたいな、情けない大人で悪かったですね」
「おいおい、情けないとまで言ってないよ」
「でも、馬鹿にしてる」
「まあね。馬鹿にされたくなきゃ、もう少し大人になりなよ」
「もうっ、いつまでも私を子ども扱いするんだからっ」
「そんなことないさ。お前も、近頃グッと綺麗になったし、もう大人の女だと、僕は思っているよ」
「嘘ばっかり」
「本当さ」
「じゃあ、嘘じゃないって、証明してよ」
「ん~……証明か……どうやって、証明するかな……よし」
アークハルトお兄様は、何かを思いついたような顔になると、私との距離を詰め、頬に突然口づけをした。驚きと恥じらいで、自分の顔が赤くなるのが、鏡を見なくても、よく分かった。
「これでどうだい? 子供の頬に口づけするほど、僕の女性の趣味が幼くないことは知っているだろう?」
「こ、こ、こ、こんなの、それこそ子供だましじゃないっ。こんなのじゃ、私、誤魔化されないわ」
「なに? どうしたの、お兄様。なんで笑うの?」
「いや、だって、お前が、『本当の愛』だなんて、思春期の女の子みたいなこと言うから」
「な、なによ。私が『本当の愛』を語ったら、おかしいって言うの?」
「違うよ。ふふ、気を悪くしたなら謝る。ふふ……本当の愛……ふふふっ」
「まだ笑ってる。もういいわよ、お兄様なんか知らないから」
「すまんすまん、悪かった。僕が全面的に悪い、謝るよ。……なあ、ローラリア、愛に『本当』も『嘘』も、あると思うか?」
「えっ?」
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「…………」
「穏やかに続く愛もあれば、激しく燃え上がり、いずれは消えてしまう愛もある。そして、消えたかと思えば、再び輝きだす愛もある。それらは決して、どれかが本当で、どれかが嘘と言うことはない。どれも、『本当の愛』なんだよ。たとえ最終的には破滅を迎えた愛だとしても、一時でも誰かを愛おしく思えたという気持ちは、本物なんだから」
「それは……そうかもしれないけど……じゃあ、なんで『本当の愛』だなんて言葉があるの?」
「ただの言葉遊びさ。『本当の愛』『真実の愛』『究極の愛』……みんな、そういう聞こえの良い言葉が好きだからね。でも、さっきも言ったけど、思春期の子供ならともかく、だいの大人が、いつまでもそんな『幻想の言葉』に惑わされて、思い悩み、素敵な異性との恋や出会いを純粋に楽しめないようじゃ、どうかと僕は思うけどね」
「『幻想の言葉』に惑わされる、思春期の子供みたいな、情けない大人で悪かったですね」
「おいおい、情けないとまで言ってないよ」
「でも、馬鹿にしてる」
「まあね。馬鹿にされたくなきゃ、もう少し大人になりなよ」
「もうっ、いつまでも私を子ども扱いするんだからっ」
「そんなことないさ。お前も、近頃グッと綺麗になったし、もう大人の女だと、僕は思っているよ」
「嘘ばっかり」
「本当さ」
「じゃあ、嘘じゃないって、証明してよ」
「ん~……証明か……どうやって、証明するかな……よし」
アークハルトお兄様は、何かを思いついたような顔になると、私との距離を詰め、頬に突然口づけをした。驚きと恥じらいで、自分の顔が赤くなるのが、鏡を見なくても、よく分かった。
「これでどうだい? 子供の頬に口づけするほど、僕の女性の趣味が幼くないことは知っているだろう?」
「こ、こ、こ、こんなの、それこそ子供だましじゃないっ。こんなのじゃ、私、誤魔化されないわ」
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