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第5話

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「助けてくれって……そう言われても、私にはどうすることもできないわ。もう、私とあなたの問題じゃなくて、他の貴族たちが、あなたをどう見ているかという問題になっているのだから」

 別に、ブライアンを冷たく突き放してやろうと思ってそう言ったわけではなく、単に事実を述べただけなのだが、結果的に厳しい言い方になってしまった。

 ブライアンは、そこでやっと顔を上げ、まさしく必死という感じで、私を見る。それから、恐る恐る、言葉を紡いでいく。

「……ローラリア、俺は今から、とても失礼なことを言う。怒らないで聞いてくれるか?」

 それは、これから彼の言う『とても失礼なこと』とやらが、どれほど失礼かによるので、約束はできそうにない。しかし、私が返事をするより早く、ブライアンは語り始めた。

「つまりだな、えっと、俺と、その、もう一度、婚約を結びなおしてはもらえないだろうか? そうすれば、周りの貴族たちも、また俺のことを信用して……」

 私は、ブライアンの話を遮るかのように、大きなため息を漏らした。

 何を言い出すかと思えば、身勝手な理由で破棄した婚約を、今さら結びなおしたいだなんて、本当に、『とても失礼なこと』だ。私の怒りが伝わったのか、図々しいブライアンも、流石にピタリと口を止めた。

 私は、そんな彼を叱るように言う。

「ブライアン、私との婚約中に、他に好きな人ができたっていうのは、一応、心情的に理解できるわ。恋は突然始まるものだから、そういうことも、あるわよね。……そして、その『好きな人』と添い遂げるために、私との婚約を破棄したのも、まあ、わかるわ。考えようによっては、二股をかけるよりは、ずっと誠実だと、捉えることもできる」

 そこで一度言葉を切り、私はほんの少しだけ声を荒げた。

「でもね、一度破棄した婚約を、自分の立場が悪くなったからまた結びなおしてくれっていうのは、いくらなんでも、私に対して失礼すぎると思わない? あなた、結局、自分のことしか考えてないのよ。ほんの少しでも私のことを尊重する気があったら、間違ってもこんな行動はしないはずだわ」

 ブライアンは、もう何も言わなかった。
 ふたたび顔を伏せ、体を小刻みに震わせている。

 どうやら、すすり泣きをしているらしい。

 ……ふう。
 まったく、困った人。

 体は大きいけど、子供みたいなんだから。

 私は、先程とは打って変わって、なるべく優しい声色で、言う。

「ブライアン。変に気を持たせるような言い方をしても仕方ないから、ハッキリ言うわね。あなたと婚約を結びなおすことは、できません。……そもそも、私の気持ちがどうとかいう以前に、貴族同士の公的な婚約は、子供の口約束とは違うわ。そんな簡単に、結んだり破棄したりするものじゃないのよ」
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