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第2話

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 衝撃的だった。

 酒屋の使い走りに過ぎない青年と、貴族の使用人たちの中でも上位の階級にいるメイド長では、明らかに、メイド長の方が立場が上である。しかし、愛し合う二人にとっては、立場の上下など、何の意味も価値もないことのようであり、二人はすべてを忘れ、お互いを求めあっていた。

 これが、恋というものなのね。
 これが、『本当の愛』というものなのね。

 その時感じた心の震えが、いまだに収まらない。
 二人のことを思い出すたびに、自分の人生に目が向き、ため息が漏れる。

 私は、あの二人とは違う。

 見てくれだけは豪華に着飾った、貴族のお嬢様。だけど、本当に誰かを好きになったことも、好きになってもらったこともない、なんにも知らないお嬢様。

 まるで、飾り物の人形だ。

 私はこのまま、恋することも知らず、ただただ、年を取っていくだけ……そう思うと、虚しくて虚しくて、たまらなかった。かといって、お父様の顔に泥を塗り、ブライアンの家との関係を悪くするわけにもいかないので、私から婚約を解消することなど、できるはずもない。

 だから、ブライアンが『他に好きな人ができた』と言ってくれたときは、最高に嬉しかった。私はなるべく平静を装ったが、自分の胸がときめき、高鳴るのが、ハッキリと分かった。……だって、これで、何の興味もない男と離れて、私自身にとっての、『本当の愛』を探すことができるのだから。

 喜びを、表情には出していないつもりだったが、ブライアンにはそれが伝わったらしく、彼は少しだけ眉を顰め、言う。

「……やけに嬉しそうだな、ローラリア。俺は今、お前と別れ話をしているんだぞ?」

 どうやら、今まさに私を捨てようとしているというのに、嬉しそうにしていたのが、彼のプライドを傷つけたらしい。なんとも小さな男だ。今までは好きでも嫌いでもなかったが、少しだけ『嫌い』の方に、私の感情が傾いた。

 私は少々緩んでいた顔を引き締め、役所の職員のように、事務的に言う。

「いえ、別に嬉しくはありませんよ。……えっと、別れ話ということですが、それでは、私たちの婚約については、どうなるのでしょうか?」

「もちろん、解消することになる。お前の家と俺の家、両家の関係は少々悪いものになってしまうかもしれないが、これも『本当の愛』のためだ、仕方がない」

「そうですね。『本当の愛』のためですもの、仕方ありませんよね、ふふっ」

「……お前、今、笑ったか?」

「気のせいですわ。ところで、これだけはハッキリさせておきたいのですけど、婚約解消の原因は、私という婚約者がありながら、他の女性に好意を持ってしまったあなたにありますよね? そのあたりは、きちんと書類に明示しておいてもらえますか?」
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