幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ

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第30話(パメラ視点)【完結】

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 私は、控室で目を覚ました。

 うぅ……
 痛い、痛い……

 まぶたが腫れて、左目が、見えない。
 口の中は、血の味でいっぱい。
 鼻の奥が、熱い。

 隣に座ってる黒ずくめの男が、やや高揚した調子で言う。

「お前、なかなかやるな。完全など素人のくせに、2ラウンドまで立ってるなんてよ。きちんとしたトレーニングをすれば、本当に、いいボクサーになれるかもな」

 それならばせめて、『きちんとしたトレーニング』をおこなってから、リングに上げてほしかったものだ。……いや、冗談じゃない。こんな暴力的で、血なまぐさいこと、とてもじゃないが、続けることなんてできない。トレーニングはいやだし、試合はもっといや。もう、こりごりだ。

 私は、痛む顎をなんとか動かして、言葉を紡ぐ。

「あ……あぅ……あの……私……無理です……これ、無理です……だから……その……えっと、やっぱり、娼館で……働きます……」

 もう、迷いはなかった。

 リングの上でボコボコにされるくらいなら、娼婦の方が百倍マシだ。だいたい、たった一年我慢すればいいだけなんだから、最初から駄々をこねず、娼館で働くことを了承しておけばよかった。

 黒ずくめの男は、肩をすくめ、言う。

「なんだ、今さら。もう遅いよ。自分の顔、見てみな」

 そう言って、彼は手鏡を私に向けた。

 私は、絶句した。
 頬が、パンチを受けた衝撃で、大きく裂けていたからだ。

「安心しな。すぐに医者を呼んで、縫ってやるよ。だが、完治しても、顔には大きな傷が残る。……頬に傷痕のある娼婦を抱く男なんていやしねぇ。あんたはこれから、ボクサーとしてやってくしかないんだよ。ずっとな」

 私は、震える唇で、問う。

「ずっとって……どれくらい……? どれくらい戦えば、私の借金は、なくなるの……?」

 黒ずくめの男は、顎に手をやると、しばらく考えてから、言う。

「そうだな。娼婦ほど効率は良くないから、三年は頑張ってもらう必要があるだろうな」

 三年。

 三年。

 こんな、血みどろの生活を、三年。

 死ぬ。

 負け分を返し終わる前に、絶対死んでしまう。

 ジョセフ。

 助けて。

 助けて。

 助けて。

 助けてえええええぇぇぇぇぇぇぇぇ……

 未来に絶望し、気が遠くなる。
 私は再び、意識を失った。

 その日から、私の生き地獄が始まったのでした。



終わり



――――――――――――――――――――――――――――――――

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 本日から新作『身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました』を投稿しております。

 パメラ以上に悪質な最低のクズ男が、追い詰められ、凄惨な末路を辿るざまぁ系のお話です。よろしければ、見てもらえると嬉しいです!
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感想 133

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みんなの感想(133件)

碧い
2023.09.02 碧い

パメラ、成長も反省もしない人間が幸福になることはないんだよ。
まあ、お前は身体が丈夫な「だけ」が取り柄だし下手な男よりもいいパンチを持っているそうだから
頑張ればボクサーとして成功するんじゃないか?

解除
邦太郎
2021.07.31 邦太郎

面白い作品でした 途中、中弛みがあり、
作品から離れていましたが、丁度飽きないときに
完結させるのは流石😉
やはり、完結の文字があると
理解しやすい

小平ニコ
2021.08.01 小平ニコ

感想ありがとうございます!
あ~、やっぱり作品設定を『連載中』から『完結』に変更するだけより、ちゃんと【完結】って書いた方がわかりやすいんですね~。参考になります~。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

解除
kunoenokou
2021.07.25 kunoenokou

パメラが大負けしたカジノのオーナーさん。当たり前のことを言ってますね。娼館が嫌だと言うなら何が出来るのか尋ねてくれたし。結局、何も出来ない穀潰しだったのでボクサーとしてリングに立つ事になった訳ですが。
よくあるこういった勘違い女は娼館以外では鉱山送りとかが多いですが、リングに立たされる返済方法は初めて読みました。
やっぱり娼館に行きますって言った時には既に遅し。可愛らしい顔が傷だらけに。我儘がいつも通ってたから、今回もきいてもらって、結果、ボクサーの道しかないって。自業自得だなぁと。
ジョセフの名前を何度も出したのに、そっちから回収しようとはならなかったのでホッとしました。自分の借金は自分で返さなきゃね。

小平ニコ
2021.07.25 小平ニコ

感想ありがとうございます!

>我儘がいつも通ってたから、今回もきいてもらって、結果、ボクサーの道しかない

負け分を払わなきゃいけないってわかった後、『これはもうどうしようもない』と自分の人生を受け入れていれば、最悪の結末だけは避けられたんですよね。素直に黒ずくめの男の言う通りにしていれば、一年で借金は返し終わり、その後も、『あ、私、思ったよりこの仕事向いてるわ』ってなって、案外羽振りの良い生活ができていたかもしれません。

解除

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