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第27話(パメラ視点)

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「まあ、いつまでも、甘ったれた小娘を説教しててもしょうがねぇ。ビジネスの話をしよう。安心しな、利子は高いが、法外って程でもねぇよ。あんたはひたすら、真面目に働いて、じっくり負け分を返していけばいい。……お嬢さん、あんた、何か特殊な資格や、人に誇れるような能力があるか?」

「……ないわ」

「ひとつもか?」

「…………」

「そうか。じゃあ、職歴は? これまで、どんなところで働いたことがある?」

「……働いたことなんて、一度もないわ」

「一度も? 本当か? アルバイト程度のことでもいいんだ、それならなにか、一つくらいはあるだろう?」

 聞き返されても、ないものはない。
 私には、なんにも、人に誇れるものがない。
 だって、ずっとずっと、ジョセフに寄生して生きてきただけだもの。

 これまでは、それを恥ずかしいことだなんて思わなかった。

 でも、ジョセフに頼ることのできない今の状況で、改めて自分自身に何があるのか考えると、本当に何もないことを思い知らされ、みじめでみじめで、両方の瞳からぽろぽろと涙がこぼれてくる。

 黒ずくめの男は、小さくため息を吐いて、口を開く。

「じゃああんた、今までどうやって生きてきたんだ?」

「それは、その、ジョセフの家に、居候して、えっと、世話を……」

「能無しの居候の分際でギャンブル遊びか、いい身分だな。あんたの世話をしてたジョセフさんとやらも、さぞ苦労しただろうぜ」

「ううぅぅぅ……」

「まあいい。実務能力や職歴がなくても、若い女なら、働き口はなんとでもなる。いい店を紹介してやるから、そこで頑張るんだな。あんた、顔は中の上ってところだが、体つきは健康的で、男受けするタイプだ。一生懸命愛想を振りまけば、利子分も含めて、一年ほどで負け分を払いきれるだろうぜ」

 若い女なら、働き口はなんとでもなる――
 体つきは健康的で、男受けするタイプだ――

 なんだか、凄く嫌な予感がして、私は尋ねた。

「あ、あの、まさか、その働き口って……」

 男は、事も無げに言う。

「娼館だよ。心配すんな。うちの組織が運営してる店は、やばい客ははじくようにしてる優良店だ。安心して働けるぜ」

 娼館!?

 じょ、じょ、じょ、冗談じゃないわ!

 私が!

 この私が!

 きたならしい淫売になるなんて! 絶対にいや!

 私は立ち上がり、叫んだ!

「いやよ! いや! そんなのいや! いやいやいやいや! 絶対にいや! いやあああああぁぁぁぁぁ!!」

 こうやって、駄々をこねると、ジョセフはいつも困ったような笑顔になり、私のワガママを聞いてくれた。そうよ、いつだって、なんだって、こうすれば、私の思い通りになるんだから。
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