幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ

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第23話(パメラ視点)

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 くそっ。
 くそっ。
 くそっ。

 なんなのよ、あのババアっ。

 いつも、カビの生えた置物みたいに黙りこくってるから、『こいつは適当に無視しとけばいい』って思ってたのに、いきなりぶちキレやがって。ふざけんじゃないわよっ。

 女としての盛りを過ぎて、もう生きてる価値もない、干物同然のババアっ。
 死ね、死ね、死ねっ! とっとと死んじまえっ!

 私は、思いつく限りの呪いの言葉を吐きながら、歩き続ける。

 ……そう、私は今、当てもなく、夜の街を歩いている。

 それも、裸足でだ。

 ほとんどパニックの状態で、逃げるようにジョセフの家を出たので、いつの間にか、履いていたはずの靴が、脱げてしまったらしい。

 ああ、くそっ。

 これまでの人生で、裸足で路地を歩いたことなんてなかったけど、靴を履いてないと、こんなに足が痛くなるのね。くそっ、くそっ、くそっ。

 それに、下着が濡れてて、気持ち悪いっ。
 何もかも、あのババアのせいだ。

 だいたい、ジョセフも、ババアを羽交い絞めにするのが遅いのよっ。
 とっとと止めてくれていれば、私がこんなに目にあうことはなかったはずよ。

 本っ当に、子供の頃からノロマなんだから。
 ノロマノロマノロマ……ウスノロジョセフっ。

 ……それにしても、さっきの、あのババアの目。

 思い出すだけで、寒気がする。

 脅しなんかじゃない。
 あいつ、本気で私を殺す気だった。

 他人に、あれほど強烈な殺意を向けられたのは、生まれて初めてだ。お芝居や、物語の中でよく出てくる、『殺してやる』なんて言葉とは、根本的に違う迫力。まるで、空気を振動させるようにして伝わってきた、憎悪の意思。……何故、『殺気』などという言葉が存在するか、私はなんとなく、理解した。

 ……帰りたい。

 帰って、気分なおしにもう一度ワインを飲んで、寝てしまいたい。

 でも、帰れない。

 ジョセフの言っていた通り、あのババアは、私の顔を見た途端、全自動殺戮機械のように襲い掛かって来るだろう。あのババアの凄まじい殺気にさらされた私には、確信がある。

 ……はぁ。

 とりあえず、今夜、泊まる場所を探さなくちゃ。

 今後の生活費は、ババアがいないときにジョセフにたかればいいとして、今日のところは、適当な宿を見つけて、そこで眠るとしましょうか。

 そんなことを思っていると、ちょうど、安宿が立ち並ぶ路地に入った。……どの宿も、大同小異の、みすぼらしい建物だ。これならジョセフの家の方がよっぽどマシである。

 でも、裸足で歩き続けるのにも疲れたし、泊まれるのならもう、どこでもいいわ。
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