幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ

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第21話(ジョセフ視点)

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 そして母上は、ナイフを振り上げ、パメラに襲い掛かろうとした。
 僕は大慌てで、後ろから母上を羽交い絞めにし、パメラに叫ぶ。

「パメラ、逃げろ! 母上は本気だ! 殺されるぞ!」

「あ……ぅ……ぁ……うぅ……っ」

 パメラはあまりのショックで固まったまま、なんとか呻き声を絞りだすだけで、動くことができないようだった。……料理の香りに混ざって、わずかだが、尿の臭いが漂ってくる。どうやらパメラは、凄まじい恐怖で、漏らしてしまったらしい。

 僕の腕の中で、母上は激しく暴れながら、絶叫する。

「離せえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! この寄生虫、潰す、潰す、潰して、切り刻んで、ぐっちゃぐちゃにしてやるううううううううううううぅぅぅぅぅ!!!!」

 うおおおおお。
 とんでもない怪力だ。

 これが、やせ細った中年女性の力だなんて、信じられない。
 もう、三十秒だって押さえてはいられないぞ。

 僕は、必死の形相でパメラに言う。

「何してる! 早く行け、パメラ! そして、二度と戻って来るな! たぶん母上は、お前の顔を見たら、もう無条件で殺しにかかるぞ!」

 パメラはかすかに首を上下させ、そして、這う這うの体で家から出て行った。……数分後、パメラの姿が見えなくなったことで落ち着いたのか、母上は、いつもの物静かな姿に戻った。

 僕は外に出て、周囲の様子を伺う。

 パメラは、どこにもいない。……それも当然か。これほど恐ろしい目に遭ったのだ。恐らく、二度と戻ってくることはないだろう。

 ほっ。

 ……なんだ? 今の?

 僕の胸から、『ほっ』と音がした。

 ……そうか。

 僕は、ほっとしているのだ。
 僕の人生から、パメラという重たい石がなくなったことを。

 先程、『二度と戻って来るな!』と言ったのは、パメラを守るためであり、母上を殺人犯にさせないためでもあったが、それ以上に、『自分のため』に言ったに違いない。

 ふふ。
 ふふふ。
 ふふふふ……

 なんて、身勝手で、浅ましい……

 つい先程、僕は思った。

『フェリシティアの新しい婚約者である、高潔で誠実なリカルドのように、僕も、人として正しく生きてみたい』と。

『同じ男として、僕も、彼のように素晴らしい人間でありたい』と。

『ただの炭鉱夫に過ぎない今の僕にできる『人として正しいおこない』は、最後までパメラの面倒を見てやることだ』と。

 ……結局僕は、最後までパメラの面倒を見ることを、放棄したのだ。僕の決意や誠実さなど、しょせん、その程度の意思に過ぎなかったということだ。

 いや、そもそも僕には、誠実さなどなかったのかもしれない。だって僕は、心のどこかで、母上が我慢しきれなくなる日を待っていた。……母上が激怒し、パメラを殺そうとすれば、それを言い訳にして、パメラを追い出すことができるから。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 今回のお話でパメラは追い出されましたが、もちろんこれで終わりではありません。次の次の更新から、パメラ視点の最終章が始まり、そこで彼女は、やりたい放題やってきたことの報いを受けます。よろしければ、この物語の結末まで、お付き合いください。

 昨日から新作『妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです』を投稿しております。

 聖女に選ばれた姉を逆恨みした妹が、計略を用いて聖女の座を奪うのですが、実力不足で自業自得の結末を迎えるざまぁ系の物語です。あんまり重苦しい展開のないお話ですので、気楽に見てもらえると嬉しいです!
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