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第16話(ジョセフ視点)
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僕とパメラが十歳の頃、ちょっとした……いや、大変な事件が起こった。
僕の父上が、とある商人から『絶対に儲かる』という投資話を持ち掛けられたのだ。父上は少額の投資をした後、パメラの両親に『こんなうまい話は二度とない。お前たちもやった方がいいぞ』と、熱っぽく語って聞かせた。そんな父上の話を真に受けたパメラの両親は、なんと、財産の八割以上を投資してしまったのである。
……その結果は、惨憺たる有様だった。
当然だろう。『絶対に儲かる投資話』ほど、怪しいものはない。
投資は大失敗に終わり、国庫に対する税金を納められなくなったパメラの家は、貴族としての身分をはく奪された。……それ以来、僕の家は、パメラの家に対し、大変な『負い目』を感じるようになった。
その『負い目』は、今も脈々と続き、何の役にも立たないパメラがうちで三食昼寝付きの生活をしているのに、どうしても追い出すことができない。
図々しいパメラに文句を言おうと思うこともあるが、パメラはいつも絶妙なタイミングで、父上の持ちかけてきた『怪しげな投資話』によって自分の家が没落してしまったことを、僕に語り始める。
本当に、こざかしい女だ。
その話を持ち出されると、僕が何も言えなくなると知っていて、同情を誘うように、悲しげに話すのだ。……そして、こざかしい浅知恵だと知りながらも、やはり僕は、パメラを追い出すことができない。パメラの性格が、こんなふうにねじ曲がってしまったのは、子供の頃に家が没落してしまったせいかもしれないと、思うからだ。
あるいは、もっと早い段階で、一度ガツンと言ってやれば、パメラの性根もここまで腐ることはなかったのかもしれない。そう思うと、ますます、今更になってパメラを見捨てることは、罪深いことに思えた。
ふふ。
昔の僕なら、『罪深い』だなんて小難しいこと、考えはしなかっただろうな。
……二年前。
あの、嵐の日。
フェリシティアの新しい婚約者――高潔で誠実なリカルドと会話を交わして以来、こんなどうしようもない僕でも、少しは人として正しく生きてみたくなった。
同じ男として、僕も、彼のように素晴らしい人間でありたい。……そして、ただの炭鉱夫に過ぎない今の僕にできる『人として正しいおこない』は、最後までパメラの面倒を見てやることだろう。
だから僕は、パメラから与えられるストレスを我慢して、一緒に暮らしている。そうすることで、ほんの少しだが、フェリシティアを傷つけ、悩ませたことへの贖罪にもなるような気がした。
そんな僕の気持ちなど知らずに、パメラは今日も無遠慮に夕飯をおかわりする。……本当に、よく食べる女だ。こいつさえいなければ、母上と二人で、もうちょっとだけ上等なところに住むことができるのだが……いや、それは言うまい……
――――――――――――――――――――――――――――――――
本日から新作『私を虫けらと呼ぶ婚約者。本当の虫けらはどっちでしょうね』を投稿しております。婚約者を虫けら呼ばわりする最低の男が、自業自得で悲惨な結末を迎える婚約破棄ざまぁ物です。全5話で、だいたい5000文字くらいの、楽に読める短編ですので、見てもらえると嬉しいです!
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当然だろう。『絶対に儲かる投資話』ほど、怪しいものはない。
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図々しいパメラに文句を言おうと思うこともあるが、パメラはいつも絶妙なタイミングで、父上の持ちかけてきた『怪しげな投資話』によって自分の家が没落してしまったことを、僕に語り始める。
本当に、こざかしい女だ。
その話を持ち出されると、僕が何も言えなくなると知っていて、同情を誘うように、悲しげに話すのだ。……そして、こざかしい浅知恵だと知りながらも、やはり僕は、パメラを追い出すことができない。パメラの性格が、こんなふうにねじ曲がってしまったのは、子供の頃に家が没落してしまったせいかもしれないと、思うからだ。
あるいは、もっと早い段階で、一度ガツンと言ってやれば、パメラの性根もここまで腐ることはなかったのかもしれない。そう思うと、ますます、今更になってパメラを見捨てることは、罪深いことに思えた。
ふふ。
昔の僕なら、『罪深い』だなんて小難しいこと、考えはしなかっただろうな。
……二年前。
あの、嵐の日。
フェリシティアの新しい婚約者――高潔で誠実なリカルドと会話を交わして以来、こんなどうしようもない僕でも、少しは人として正しく生きてみたくなった。
同じ男として、僕も、彼のように素晴らしい人間でありたい。……そして、ただの炭鉱夫に過ぎない今の僕にできる『人として正しいおこない』は、最後までパメラの面倒を見てやることだろう。
だから僕は、パメラから与えられるストレスを我慢して、一緒に暮らしている。そうすることで、ほんの少しだが、フェリシティアを傷つけ、悩ませたことへの贖罪にもなるような気がした。
そんな僕の気持ちなど知らずに、パメラは今日も無遠慮に夕飯をおかわりする。……本当に、よく食べる女だ。こいつさえいなければ、母上と二人で、もうちょっとだけ上等なところに住むことができるのだが……いや、それは言うまい……
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