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第14話(ジョセフ視点)
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嵐?
僕は、うなだれていた首を持ち上げ、空を見る。
本当だ。
少し前までは晴れていたのに、真っ暗な曇天になっている。
ずっと俯いていたので、全然気がつかなかった。
遠くから、雷の音も響いてくる。
確かに、このまま歩いていたら、酷い嵐に巻き込まれてしまうだろう。
……しかし、それがどうした。
僕の心は、すでにズタズタのずぶ濡れだ。
雨に打たれるくらい、大したことじゃない。
僕は、何も答えずに、歩き出した。
青年は、虚ろな瞳で一言も発しない僕を心配したのか、さらに声をかけてくる。
「あの、大丈夫ですか? もしよろしければ、あなたの目的地まで、馬車でお送りしますが。……フェリシティア、少し遠回りになってしまうかもしれないが、許してくれるかい?」
なんだって?
フェリシティア?
僕は張り付いたように足を止め、背を伸ばし、馬車の小窓の奥を覗き込んだ。
なんと、青年の横には、あのフェリシティアが座っている。別れから一年がたち、その美貌は、ますます磨かれ、輝くばかりだ。光の加減で、フェリシティアからは僕の顔が見えないのだろう。彼女は優しく青年に微笑み、言う。
「もちろんよ、リカルド。濡れてしまったら大変だわ。すぐに、馬車に入れて差し上げて」
……なるほど。この青年が、今のフェリシティアの婚約者、リカルドか。とても凛々しく、そして、美しい顔をしている。彼の青い瞳からは、利発さと共に、清らかな心根と、誠実さを感じる。
地方領主の息子という素晴らしい家柄であり、彼自身も、王宮に勤める有能な若者だ。……僕なんかとは、男としての格が違うな。
ふふっ。
ふふふっ。
僕は、小さく笑った。
自嘲気味で、寂しい笑いだった。
しかし、なんだかスッキリした気分でもあった。
これほどの男が相手なら、すっぱりとフェリシティアを諦めることができる。
僕はリカルドに微笑し、軽く手を振った。
「ご親切にどうも、ですが、おかまいなく。目的地は、すぐ近くですから」
そして、最後に「お幸せに」と言い、駆けだした。これ以上、リカルドとフェリシティアが仲睦まじく座っているのを見ていると、また、泣いてしまいそうだったからだ。
走っているうちに、やがて、雨が降ってきた。
雨はあっという間に勢いを増し、凄まじい嵐となる。
風が僕の体を押し、雨粒は弾丸のように顔を叩く。
嵐の轟音の中、僕は叫んだ。
意味のある言葉は、一つもない。
ただひたすらに、心の中に溜まっていたフェリシティアへの想いを吐き出し続けた。吐き出して吐き出して吐き出して、明日から、すべてを忘れて、新しい人生を生きて行こうと、そう思ったのだ。
僕は、うなだれていた首を持ち上げ、空を見る。
本当だ。
少し前までは晴れていたのに、真っ暗な曇天になっている。
ずっと俯いていたので、全然気がつかなかった。
遠くから、雷の音も響いてくる。
確かに、このまま歩いていたら、酷い嵐に巻き込まれてしまうだろう。
……しかし、それがどうした。
僕の心は、すでにズタズタのずぶ濡れだ。
雨に打たれるくらい、大したことじゃない。
僕は、何も答えずに、歩き出した。
青年は、虚ろな瞳で一言も発しない僕を心配したのか、さらに声をかけてくる。
「あの、大丈夫ですか? もしよろしければ、あなたの目的地まで、馬車でお送りしますが。……フェリシティア、少し遠回りになってしまうかもしれないが、許してくれるかい?」
なんだって?
フェリシティア?
僕は張り付いたように足を止め、背を伸ばし、馬車の小窓の奥を覗き込んだ。
なんと、青年の横には、あのフェリシティアが座っている。別れから一年がたち、その美貌は、ますます磨かれ、輝くばかりだ。光の加減で、フェリシティアからは僕の顔が見えないのだろう。彼女は優しく青年に微笑み、言う。
「もちろんよ、リカルド。濡れてしまったら大変だわ。すぐに、馬車に入れて差し上げて」
……なるほど。この青年が、今のフェリシティアの婚約者、リカルドか。とても凛々しく、そして、美しい顔をしている。彼の青い瞳からは、利発さと共に、清らかな心根と、誠実さを感じる。
地方領主の息子という素晴らしい家柄であり、彼自身も、王宮に勤める有能な若者だ。……僕なんかとは、男としての格が違うな。
ふふっ。
ふふふっ。
僕は、小さく笑った。
自嘲気味で、寂しい笑いだった。
しかし、なんだかスッキリした気分でもあった。
これほどの男が相手なら、すっぱりとフェリシティアを諦めることができる。
僕はリカルドに微笑し、軽く手を振った。
「ご親切にどうも、ですが、おかまいなく。目的地は、すぐ近くですから」
そして、最後に「お幸せに」と言い、駆けだした。これ以上、リカルドとフェリシティアが仲睦まじく座っているのを見ていると、また、泣いてしまいそうだったからだ。
走っているうちに、やがて、雨が降ってきた。
雨はあっという間に勢いを増し、凄まじい嵐となる。
風が僕の体を押し、雨粒は弾丸のように顔を叩く。
嵐の轟音の中、僕は叫んだ。
意味のある言葉は、一つもない。
ただひたすらに、心の中に溜まっていたフェリシティアへの想いを吐き出し続けた。吐き出して吐き出して吐き出して、明日から、すべてを忘れて、新しい人生を生きて行こうと、そう思ったのだ。
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