14 / 30
第14話(ジョセフ視点)
しおりを挟む
嵐?
僕は、うなだれていた首を持ち上げ、空を見る。
本当だ。
少し前までは晴れていたのに、真っ暗な曇天になっている。
ずっと俯いていたので、全然気がつかなかった。
遠くから、雷の音も響いてくる。
確かに、このまま歩いていたら、酷い嵐に巻き込まれてしまうだろう。
……しかし、それがどうした。
僕の心は、すでにズタズタのずぶ濡れだ。
雨に打たれるくらい、大したことじゃない。
僕は、何も答えずに、歩き出した。
青年は、虚ろな瞳で一言も発しない僕を心配したのか、さらに声をかけてくる。
「あの、大丈夫ですか? もしよろしければ、あなたの目的地まで、馬車でお送りしますが。……フェリシティア、少し遠回りになってしまうかもしれないが、許してくれるかい?」
なんだって?
フェリシティア?
僕は張り付いたように足を止め、背を伸ばし、馬車の小窓の奥を覗き込んだ。
なんと、青年の横には、あのフェリシティアが座っている。別れから一年がたち、その美貌は、ますます磨かれ、輝くばかりだ。光の加減で、フェリシティアからは僕の顔が見えないのだろう。彼女は優しく青年に微笑み、言う。
「もちろんよ、リカルド。濡れてしまったら大変だわ。すぐに、馬車に入れて差し上げて」
……なるほど。この青年が、今のフェリシティアの婚約者、リカルドか。とても凛々しく、そして、美しい顔をしている。彼の青い瞳からは、利発さと共に、清らかな心根と、誠実さを感じる。
地方領主の息子という素晴らしい家柄であり、彼自身も、王宮に勤める有能な若者だ。……僕なんかとは、男としての格が違うな。
ふふっ。
ふふふっ。
僕は、小さく笑った。
自嘲気味で、寂しい笑いだった。
しかし、なんだかスッキリした気分でもあった。
これほどの男が相手なら、すっぱりとフェリシティアを諦めることができる。
僕はリカルドに微笑し、軽く手を振った。
「ご親切にどうも、ですが、おかまいなく。目的地は、すぐ近くですから」
そして、最後に「お幸せに」と言い、駆けだした。これ以上、リカルドとフェリシティアが仲睦まじく座っているのを見ていると、また、泣いてしまいそうだったからだ。
走っているうちに、やがて、雨が降ってきた。
雨はあっという間に勢いを増し、凄まじい嵐となる。
風が僕の体を押し、雨粒は弾丸のように顔を叩く。
嵐の轟音の中、僕は叫んだ。
意味のある言葉は、一つもない。
ただひたすらに、心の中に溜まっていたフェリシティアへの想いを吐き出し続けた。吐き出して吐き出して吐き出して、明日から、すべてを忘れて、新しい人生を生きて行こうと、そう思ったのだ。
僕は、うなだれていた首を持ち上げ、空を見る。
本当だ。
少し前までは晴れていたのに、真っ暗な曇天になっている。
ずっと俯いていたので、全然気がつかなかった。
遠くから、雷の音も響いてくる。
確かに、このまま歩いていたら、酷い嵐に巻き込まれてしまうだろう。
……しかし、それがどうした。
僕の心は、すでにズタズタのずぶ濡れだ。
雨に打たれるくらい、大したことじゃない。
僕は、何も答えずに、歩き出した。
青年は、虚ろな瞳で一言も発しない僕を心配したのか、さらに声をかけてくる。
「あの、大丈夫ですか? もしよろしければ、あなたの目的地まで、馬車でお送りしますが。……フェリシティア、少し遠回りになってしまうかもしれないが、許してくれるかい?」
なんだって?
フェリシティア?
僕は張り付いたように足を止め、背を伸ばし、馬車の小窓の奥を覗き込んだ。
なんと、青年の横には、あのフェリシティアが座っている。別れから一年がたち、その美貌は、ますます磨かれ、輝くばかりだ。光の加減で、フェリシティアからは僕の顔が見えないのだろう。彼女は優しく青年に微笑み、言う。
「もちろんよ、リカルド。濡れてしまったら大変だわ。すぐに、馬車に入れて差し上げて」
……なるほど。この青年が、今のフェリシティアの婚約者、リカルドか。とても凛々しく、そして、美しい顔をしている。彼の青い瞳からは、利発さと共に、清らかな心根と、誠実さを感じる。
地方領主の息子という素晴らしい家柄であり、彼自身も、王宮に勤める有能な若者だ。……僕なんかとは、男としての格が違うな。
ふふっ。
ふふふっ。
僕は、小さく笑った。
自嘲気味で、寂しい笑いだった。
しかし、なんだかスッキリした気分でもあった。
これほどの男が相手なら、すっぱりとフェリシティアを諦めることができる。
僕はリカルドに微笑し、軽く手を振った。
「ご親切にどうも、ですが、おかまいなく。目的地は、すぐ近くですから」
そして、最後に「お幸せに」と言い、駆けだした。これ以上、リカルドとフェリシティアが仲睦まじく座っているのを見ていると、また、泣いてしまいそうだったからだ。
走っているうちに、やがて、雨が降ってきた。
雨はあっという間に勢いを増し、凄まじい嵐となる。
風が僕の体を押し、雨粒は弾丸のように顔を叩く。
嵐の轟音の中、僕は叫んだ。
意味のある言葉は、一つもない。
ただひたすらに、心の中に溜まっていたフェリシティアへの想いを吐き出し続けた。吐き出して吐き出して吐き出して、明日から、すべてを忘れて、新しい人生を生きて行こうと、そう思ったのだ。
459
お気に入りに追加
4,710
あなたにおすすめの小説

【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】
皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」
お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。
初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。
好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。
******
・感想欄は完結してから開きます。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する
ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。
卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。
それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか?
陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました
紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。
ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。
ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。
貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる