幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ

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第6話(ジョセフ視点)

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 ああああああ。

 なんてことだ。
 なんてことだ。
 なんてことだ。

 まさかフェリシティアが、僕との婚約を破棄するなんて。

 本当にショックを受けると、人間の両足というものは、自分の体重を支えることすらできなくなるらしい。僕は、路上であることも忘れ、頭を抱えながら、その場にへたり込んだ。

 どうしよう。
 どうしよう。
 これからどうしよう。

 想像もしていなかった状況に、口から、魂が抜け出るかのようなため息が漏れた。

「はぁ……あぁ……ああああぁぁぁ……どうしよう……どうしよう……」

 パメラが、僕のそばにしゃがみ、そっと肩を抱きながら、言う。

「いいじゃない、あんなの。私、あの子のこと、ずっと嫌いだったのよね。図々しく、私のお見舞いに来て、『体調が悪いなら、ちょっと私が診てあげる』とか言ってさ、失礼じゃないの。ちょっと医学をかじってるからって、生意気なのよ」

 僕は、驚いた。
 パメラが、嬉しそうに笑っていたからだ。

 この野郎。
 何をニヤニヤ笑っていやがるんだ。

 大変なことになってしまったんだぞ? わかってるのか?

 ……フェリシティアの、今まで見たことのないような、あの冷徹な瞳。
 もう、何をしたところで、彼女は僕を許してはくれないだろう。

 僕は、パメラを睨んだ。

 ああああ。
 ちくしょう。
 こいつのせいだ。

 こいつが、いつもいつも、やれ『頭が痛い』だの、やれ『咳が出る』だの、クソどうでもいいことで僕に頼るから、僕はフェリシティアを放っておくしかなかったんだ。

「どうしてくれるんだ……お前のせいだぞ……!」

 僕は、憎々しげに呪詛を吐きながら、パメラの両肩を掴んだ。

 彼女の肩には、病弱な女とは思えないほど、しっかり肉がついている。そりゃそうだろう。パメラの体が弱いだなんて、嘘っぱちだからな。僕の知る限り、パメラほど体力があり余っている、健康な女はいない。それが『病弱な少女』を気取ってるんだから、出来の悪い冗談にもほどがある。

 ……そうさ、知ってたさ。
 パメラの病気が、全部仮病だってことをね。

 でも僕は、パメラのワガママを、すべて受け入れた。
 馬鹿馬鹿しい嘘を、少しも気づいてないふりをして、可愛がってやった。

 よく言うだろう?
 馬鹿な子ほど可愛いって。

 あれ、本当だよ。

 それに、健康くらいしか取り柄のない、馬鹿なパメラの相手をしてると、煩わしいこともあるけど、歪んだ優越感を満たすことができて、気分がいいんだ。反対に、賢いフェリシティアと話していると、自分が愚鈍であることを思い知らされて、情けなくて、情けなくて、たまらなくなる。
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