幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
上 下
5 / 30

第5話

しおりを挟む
 はぁ……まったく、かつての私は、こんな、無神経で愚鈍な男の、いったいどこを愛していたのだろう。今となっては思い出すことも難しい。結婚まで至らず、婚約の段階で、彼との関係を帳消しにすることができて、本当に良かった。

 さっきも思ったが、こんな男のために、一秒だって時間を使うのは惜しい。

 私は、一切の感情を込めず、他人行儀……いえ、見知らぬ他人に接するよりも、冷たく言う。

「ジョセフさん、先程、魔法の通信機で述べたことがすべてです。あなたとお話しすることは、もう何もありません。これ以上私につきまとうようでしたら、法的措置も検討いたしますので、そのおつもりで」

「えっ、ちょっ、そんな、待ってくれ、僕にはまだ、きみと話したいことが……」

「もう一度だけ言います。私には、あなたとお話しすることは、もう何もありません。では、さようなら」

「ぅ……あ……うぅ……」

 ジョセフは、かすかな呻き声を漏らした。

 面と向かって冷徹な態度を取られ、おめでたいジョセフも、さすがに私の気持ちを理解したのだろう。彼は愕然とした顔で、もう、何も言わず、立ち尽くすだけだった。

 基本的に、面倒なことは好まない男だ。これほど私に嫌われていると悟った以上、必死になって関係を戻そうとしてくることは、もうないだろう。私は最後にジョセフを一瞥し、馬車に乗り込む。パメラの顔は、見もしなかった。ジョセフが殴る価値もない男なら、パメラは、見る価値すらない女だからだ。

 私は席に着き、小さく息を吐いてから、御者に言う。

「お待たせしたわね。出してもらえるかしら」

 御者は微笑みながら、溌溂と返事をする。

「かしこまりました。……フェリシティアお嬢様の、ジョセフ様に対する、毅然たる物言い、ふふっ、わたくし、大変胸がスカッとしました」

 改めてそう言われると照れくさいが、彼の溜飲が少しでも下がったなら、喜ばしいことだ。

 そして、馬車は再び、走り出した。

 ところどころに小さな石が転がっている、舗装の甘い道なので、いつもなら、しばしば、突き上げるような衝撃がくるのだが、どうしたことか、今日はまったくそれがない。

 体に感じるのは、心地の良い、微弱な振動だけ。
 まるで、道の上を滑っているかのようだ。

 馬車は、ますますスピードを上げる。

 天へ向かって、羽ばたくように。

 その軽やかな加速に、私は今後の自分の人生を重ね、希望の未来を夢見るのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

次回は、冷たく突き放されて、ショックを受けるジョセフの視点で物語が進行します。
しおりを挟む
感想 133

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】

皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」 お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。 初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。 好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。 ****** ・感想欄は完結してから開きます。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

処理中です...