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第3話
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私はその日のうちに書類を整え、役所に行って、婚約破棄の手続きをしてもらうことにした。お父様も、お母様も、私の意思を、すぐに認めてくれた。
特にお父様は、最近のジョセフの、パメラを常に優先し、私をないがしろにし続ける姿を、ずっと不愉快に思っていたそうで、ジョセフを見限った私を咎めるどころか、逆に『よく決断してくれた』と褒めてくれるくらいだった。
初老の御者に頼み、役所への馬車を出してもらうと、私は中に乗り込んだ。
ゆっくりと馬車の車輪は回転を始め、景色が流れていく。
今日は、とても良い天気だ。
最近は、ジョセフとパメラのことでイライラしてばかりで、こうやって馬車に揺られ、のんびりとした景色を楽しむ余裕もなかったわね。でも、不愉快な日々は今日でおしまい。明日からはまた、素敵な一日が始まるはずだわ。
そんなことを思っていると、急に馬車のスピードが落ちた。
やがて馬車は、完全に動きを止めてしまう。
私は、御者に尋ねた。
「どうしたの?」
御者は、困惑した様子で答える。
「フェリシティアお嬢様、それが、向こうから、ジョセフ様の馬車が、もの凄い速さでやって来るのです。こちらも馬車を走らせていると危険ですので、とりあえず、停止いたしました」
はぁー、そっかぁ……
流石のジョセフも、魔法の通信で、一方的に婚約破棄を告げられるのは、納得いかないってことかしら。だから、わざわざ馬車を飛ばして、文句を言いに来たのね。
そりゃ、そうでしょうね。
ジョセフは私を舐め切ってるけど、私との婚約がなくなると、困ってしまう『事情』があるものね。……まっ、そんなの、知ったこっちゃないけど。
一人そう思う私に、御者が再び、困ったように言う。
「フェリシティアお嬢様。ジョセフ様の馬車が、正面に停車しました。いかがいたしましょうか? お嬢様に、もうジョセフ様とお話しする意思がまったくないようでしたら、わたくしが行って、その旨をキッパリと伝えてまいりますが……」
御者はジョセフに対し、少し……いや、かなり怒っているようだった。口調こそ丁寧そのものだが、いつもよりやや低い声に、隠しきれない憤りが含まれている。
彼は、私が子供の頃からうちで働いてくれている古株の使用人だ。ジョセフとのデートの際も、何度も彼に馬車を用意してもらい、そして、ドタキャンされるたびに、馬車を車庫に戻させて、申し訳ない気持ちになったものだ。
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私はその日のうちに書類を整え、役所に行って、婚約破棄の手続きをしてもらうことにした。お父様も、お母様も、私の意思を、すぐに認めてくれた。
特にお父様は、最近のジョセフの、パメラを常に優先し、私をないがしろにし続ける姿を、ずっと不愉快に思っていたそうで、ジョセフを見限った私を咎めるどころか、逆に『よく決断してくれた』と褒めてくれるくらいだった。
初老の御者に頼み、役所への馬車を出してもらうと、私は中に乗り込んだ。
ゆっくりと馬車の車輪は回転を始め、景色が流れていく。
今日は、とても良い天気だ。
最近は、ジョセフとパメラのことでイライラしてばかりで、こうやって馬車に揺られ、のんびりとした景色を楽しむ余裕もなかったわね。でも、不愉快な日々は今日でおしまい。明日からはまた、素敵な一日が始まるはずだわ。
そんなことを思っていると、急に馬車のスピードが落ちた。
やがて馬車は、完全に動きを止めてしまう。
私は、御者に尋ねた。
「どうしたの?」
御者は、困惑した様子で答える。
「フェリシティアお嬢様、それが、向こうから、ジョセフ様の馬車が、もの凄い速さでやって来るのです。こちらも馬車を走らせていると危険ですので、とりあえず、停止いたしました」
はぁー、そっかぁ……
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そりゃ、そうでしょうね。
ジョセフは私を舐め切ってるけど、私との婚約がなくなると、困ってしまう『事情』があるものね。……まっ、そんなの、知ったこっちゃないけど。
一人そう思う私に、御者が再び、困ったように言う。
「フェリシティアお嬢様。ジョセフ様の馬車が、正面に停車しました。いかがいたしましょうか? お嬢様に、もうジョセフ様とお話しする意思がまったくないようでしたら、わたくしが行って、その旨をキッパリと伝えてまいりますが……」
御者はジョセフに対し、少し……いや、かなり怒っているようだった。口調こそ丁寧そのものだが、いつもよりやや低い声に、隠しきれない憤りが含まれている。
彼は、私が子供の頃からうちで働いてくれている古株の使用人だ。ジョセフとのデートの際も、何度も彼に馬車を用意してもらい、そして、ドタキャンされるたびに、馬車を車庫に戻させて、申し訳ない気持ちになったものだ。
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