とある令嬢と婚約者、そしてその幼馴染の修羅場を目撃した男の話【完結】

小平ニコ

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第7話

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 デイモンドもその声を聞いたわけだし、何より、目の前でジェリーナがぶん殴られたのを見て、死ぬほど慌てたんだろうな。とても男の喉から出たとは思えない、「ひえぇ」って感じの情けない声を漏らして、その場に尻もちをついたんだ。

 そんなデイモンドに、エレーンはゆっくりと近づき、また、酒のボトルを振り上げた。……大きな声じゃ言えないけどさ、俺、その時、『いけ! そのクソ男もやっちまえ!』って思ったよ。

 でもさ、エレーンは、ボトルを振り上げたまま、動かなくなったんだ。

 ……彼女、泣いてたよ。
 そして、ぽつりと、呟いた。

「デイモンド、どうして、私を見てくれなかったの……?」

 ……ってさ。

 デイモンドからの返事は求めてないみたいな感じでさ。
 唇が、小刻みに震えてるんだよ。
 開かれた口から、魂が抜け出てしまってるように、俺は感じたな。

 エレーンは、ぽつり、ぽつり、ぽつりと、まるで、小石でも吐き出すみたいに、一人でしゃべり続けたよ。俺、彼女がなんて言ってたか、全部覚えてるんだ。……あんまりにも、悲痛な声で、かわいそうだったから。

「どうして、私とのデートにいつもジェリーナを連れてきたの……?」

「私が嫌がってるのに、どうして、やめてくれなかったの……?」

「ジェリーナが私をからかって笑うのを、どうして止めてくれなかったの……?」

「私を、無視しないで……私を、いないものみたいに、扱わないで……」

「デイモンド……あなたのこと、本当に好きだったのに……」

「あなたも、私のこと、好きだって言ってくれたのに……」

「二人なら、きっと幸せになれるって、信じてたのに……」

 それだけ言い終えるとさ、エレーンも、パタッて倒れちゃったんだよ。

 そりゃ、そうだよな。
 あれだけ強い酒を一気飲みしたんだ。
 これまで意識を保ってただけでも、すごいことだよ。

 それで、エレーンも、ジェリーナも、病院に運ばれた。

 不幸中の幸いと言うべきか、エレーンはあまり腕力のない方だったらしくてさ。ジェリーナの頭には、大きなたんこぶ以外に、出血も裂傷もなく、殺人にはならなかったんだ。

 ……もっとも、エレーンは、ジェリーナを殺してやりたかったんだろうが、あんなくだらない女のために、殺人犯になることはないよな。

 えっ?
 なんで病院に運ばれた後のことまで知ってるのかって?

 俺、ラウンジをクビになった後、エレーンがどうなったのか気になってさ、彼女のことをあれこれ調べたんだよ。それで、色々なことが分かったのさ。エレーンとデイモンドの、出会いについてもね。
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