5 / 11
第5話
しおりを挟む
不可解な返答に、俺は首をひねった。そして、質問に答えてくれたデイモンドに敬意を表し、先程より少しだけ態度を良くして、問う。
「婚約者同士のデートに、何故、幼馴染のジェリーナさんがついて来るんですか?」
その問いに答えたのは、ジェリーナだった。
「だって、デイモンドったら、一年前にエレーンと婚約して以来、私よりエレーンのことばかり優先するから、私、寂しいのよ。だから私、デイモンドとエレーンのデートにまぜてもらうことにしたの。そうすれば、寂しい思いをしなくて済むでしょ?」
ジェリーナはそう言って、デイモンドの手に自分の手を重ね、二人は笑顔で見つめ合った。その様子は、どう見ても『ただの幼馴染』には見えず、仲睦まじい恋人同士としか思えなかった。
まったくもって、おかしな話だよな。いくら寂しいからって、婚約者同士のデートに、幼馴染がくっついていくなんて話、聞いたことがない。訝しむ俺に、ジェリーナは抗議するように、言葉を続けたよ。
「ボーイさん、あなた、三人でデートなんて、変だと思ってるんでしょ。でもこれは、エレーンも認めてくれたことなのよ。エレーンはいつも、快く私の同行を許してくれるの。『そんなに、どうしてもついて来たいなら、仕方ありません、諦めます』ってね」
おいおいおいおい。
『そんなに』
『どうしても』
『仕方ありません』
『諦めます』
全然、快く許してないじゃないの。
エレーンさん、めちゃくちゃ嫌がってるじゃないの。
俺さ、そこで、なんとなくわかったんだ。
エレーンが、どうして昼間から強い酒をあおるほど、荒れているのかを。
怒ってるんだよ。
そして、激しく失望してるんだ。
馬鹿で常識のない婚約者と、彼の、図々しく無神経な幼馴染に。
だから、強い酒でも飲まなきゃ、やってられなかったんだな。
デイモンドがエレーンと婚約したのは一年前だって、ジェリーナが言っていただろ? ……と、言うことは、エレーンは一年間も、この馬鹿な二人組と、三人一緒にデートさせられてたってことになる。
酷い話だよな。人を舐めるにも、ほどがあるだろ。
なんだか、無性にエレーンがかわいそうに思えてきた俺は、デイモンドとジェリーナに対し、苦言を呈そうとしたんだ。どうせ店はクビになるに決まってるし、この馬鹿二人に、ちょっとくらい文句を言ったって、バチは当たらないだろうと思ってね。
しかし、結局俺は、何も言えなかった。
俺が口を開く前に、エレーンが、ずっと閉じていた口を開いたからだ。
「……私……許してなんかいない……」
女の声とは思えないくらい、低い声だったよ。
そして、低い割に、よく聞こえる、重たい声でもあった。
「婚約者同士のデートに、何故、幼馴染のジェリーナさんがついて来るんですか?」
その問いに答えたのは、ジェリーナだった。
「だって、デイモンドったら、一年前にエレーンと婚約して以来、私よりエレーンのことばかり優先するから、私、寂しいのよ。だから私、デイモンドとエレーンのデートにまぜてもらうことにしたの。そうすれば、寂しい思いをしなくて済むでしょ?」
ジェリーナはそう言って、デイモンドの手に自分の手を重ね、二人は笑顔で見つめ合った。その様子は、どう見ても『ただの幼馴染』には見えず、仲睦まじい恋人同士としか思えなかった。
まったくもって、おかしな話だよな。いくら寂しいからって、婚約者同士のデートに、幼馴染がくっついていくなんて話、聞いたことがない。訝しむ俺に、ジェリーナは抗議するように、言葉を続けたよ。
「ボーイさん、あなた、三人でデートなんて、変だと思ってるんでしょ。でもこれは、エレーンも認めてくれたことなのよ。エレーンはいつも、快く私の同行を許してくれるの。『そんなに、どうしてもついて来たいなら、仕方ありません、諦めます』ってね」
おいおいおいおい。
『そんなに』
『どうしても』
『仕方ありません』
『諦めます』
全然、快く許してないじゃないの。
エレーンさん、めちゃくちゃ嫌がってるじゃないの。
俺さ、そこで、なんとなくわかったんだ。
エレーンが、どうして昼間から強い酒をあおるほど、荒れているのかを。
怒ってるんだよ。
そして、激しく失望してるんだ。
馬鹿で常識のない婚約者と、彼の、図々しく無神経な幼馴染に。
だから、強い酒でも飲まなきゃ、やってられなかったんだな。
デイモンドがエレーンと婚約したのは一年前だって、ジェリーナが言っていただろ? ……と、言うことは、エレーンは一年間も、この馬鹿な二人組と、三人一緒にデートさせられてたってことになる。
酷い話だよな。人を舐めるにも、ほどがあるだろ。
なんだか、無性にエレーンがかわいそうに思えてきた俺は、デイモンドとジェリーナに対し、苦言を呈そうとしたんだ。どうせ店はクビになるに決まってるし、この馬鹿二人に、ちょっとくらい文句を言ったって、バチは当たらないだろうと思ってね。
しかし、結局俺は、何も言えなかった。
俺が口を開く前に、エレーンが、ずっと閉じていた口を開いたからだ。
「……私……許してなんかいない……」
女の声とは思えないくらい、低い声だったよ。
そして、低い割に、よく聞こえる、重たい声でもあった。
48
お気に入りに追加
778
あなたにおすすめの小説

妹に勝手に婚約者を交換されました。が、時が経った今、あの時交換になっていて良かったと思えています。
四季
恋愛
妹に勝手に婚約者を交換されました。が、時が経った今、あの時交換になっていて良かったと思えています。

二人のお貴族様から見染められた平民の私。それと嫉妬を隠そうともしない令嬢。
田太 優
恋愛
試験の成績が優秀だったため学園への入学が認められた平民の私。
貴族が多く通う中、なぜかとある貴族の令息に見染められ婚約者になってしまった。
拒否することもできず、都合よく扱われても何も言えない関係。
でもそこに救いの手を差し伸べてくれた人がいた。

本当の幸せとは?
金峯蓮華
恋愛
政略結婚で、伯爵家から格上の公爵家に嫁いだカトリーヌは夫や義両親、そして使用人にまで次期伯爵夫人に相応しくないと冷遇されていた。しかし、政略結婚とはそんなもの、仕方がない。自分が我慢すれば上手くいくと思って生きていたが、心はもうボロボロだった。そんな時、夜中に目が覚めて、お花摘みにいき、扉を開けるとそこは知らない場所だった。
独自の異世界の緩いお話です。
ご都合主義です。多めに見てもらえると嬉しいです。

この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私はあまり大切にされず育ってきたのですが……?
四季
恋愛
この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私、これまであまり大切にされず育ってきたのですが……?

言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中


【完結】幼馴染に告白されたと勘違いした婚約者は、婚約破棄を申し込んできました
よどら文鳥
恋愛
お茶会での出来事。
突然、ローズは、どうしようもない婚約者のドドンガから婚約破棄を言い渡される。
「俺の幼馴染であるマラリアに、『一緒にいれたら幸せだね』って、さっき言われたんだ。俺は告白された。小さい頃から好きだった相手に言われたら居ても立ってもいられなくて……」
マラリアはローズの親友でもあるから、ローズにとって信じられないことだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる