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第94話
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ジェームス様は今、自分が大公様に対してしてきたことを思い返しているのだろう。その罪悪感が晴れる日は、いつか来るのだろうか。大公様がお年を召されてから、若き日の罪の意識を晴らすための行動を始めたように、ジェームス様もあるいは、これから贖罪の人生を始めるのかもしれない。
・
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とにもかくにも、これで遺言状の開封は終わり、フレッド様が新たなる大公となった。……ジェームス様は、大公家には残らず、国王陛下から爵位と領地を授かることもせず、いずこかに姿を消した。長きに渡って大公様の名誉を傷つけた自分が、大公様から何かを受け取ることなどできないと思ったのだろう。
「ジェームスの奴め。何も、失踪することないだろうに」
大公家の執務室にて。大公様だけが座ることを許される椅子に腰を下ろしながら、フレッド様は腹立たしげに、そして寂しそうに呟いた。
私は、その気持ちを慰めるように言う。
「根は真面目な人ですから。何も受け取らずに姿を消すことで、大公様の名誉を貶め続けたけじめをつけたかったんだと思います」
現在私は、大公フレッド様専属のメイドになっていた。エリナさんは、これまでジェームス様がおこなっていた業務も兼任することになり大忙しだが、それでもミスなく完璧にこなしているのはさすがである。
「けじめと言うなら、俺も何か、けじめをつけなきゃならんのだろうな。遺言状を聞いて、初めて知ったよ。父上はあれほど俺のことを想ってくれていたのに、俺はジェームスの策略を信じ込み、父上のことを色狂いの好色老人だと思い込んでいたんだからな。本当に、とんだ馬鹿息子だ。父上に申し訳が立たん」
「では、こういうのはどうでしょう? "けじめ"とは少し違いますが、前大公様のご意思を受け継ぎ、領内で問題を抱えている娘たち――いえ、娘に限らず、問題を抱えている人たちを率先して調査し、助けてあげるんです。そうすれば、前大公様が抱えていた罪を、現大公のフレッド様が晴らすことになり、親孝行になりませんか?」
「なるほどな。過去を悔いるより、未来を――特に、領民たちの幸福を考えて生きる方が建設的だな。ジェームスもいつか、そのことに気づいてくれるといいが」
「きっと大丈夫ですよ。もともと頭の良い方なんですから」
「ところで、最近お前が俺にかかりきりだから、ローラの奴は寂しがってるんじゃないのか?」
「それが、そうでもないんです。私たちが大公家に来てからそろそろ一年ですが、あの子、すっかり強くなりましたよ。今では、先輩にからかわれたりしたときは、ハッキリと言い返すくらいですから」
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とにもかくにも、これで遺言状の開封は終わり、フレッド様が新たなる大公となった。……ジェームス様は、大公家には残らず、国王陛下から爵位と領地を授かることもせず、いずこかに姿を消した。長きに渡って大公様の名誉を傷つけた自分が、大公様から何かを受け取ることなどできないと思ったのだろう。
「ジェームスの奴め。何も、失踪することないだろうに」
大公家の執務室にて。大公様だけが座ることを許される椅子に腰を下ろしながら、フレッド様は腹立たしげに、そして寂しそうに呟いた。
私は、その気持ちを慰めるように言う。
「根は真面目な人ですから。何も受け取らずに姿を消すことで、大公様の名誉を貶め続けたけじめをつけたかったんだと思います」
現在私は、大公フレッド様専属のメイドになっていた。エリナさんは、これまでジェームス様がおこなっていた業務も兼任することになり大忙しだが、それでもミスなく完璧にこなしているのはさすがである。
「けじめと言うなら、俺も何か、けじめをつけなきゃならんのだろうな。遺言状を聞いて、初めて知ったよ。父上はあれほど俺のことを想ってくれていたのに、俺はジェームスの策略を信じ込み、父上のことを色狂いの好色老人だと思い込んでいたんだからな。本当に、とんだ馬鹿息子だ。父上に申し訳が立たん」
「では、こういうのはどうでしょう? "けじめ"とは少し違いますが、前大公様のご意思を受け継ぎ、領内で問題を抱えている娘たち――いえ、娘に限らず、問題を抱えている人たちを率先して調査し、助けてあげるんです。そうすれば、前大公様が抱えていた罪を、現大公のフレッド様が晴らすことになり、親孝行になりませんか?」
「なるほどな。過去を悔いるより、未来を――特に、領民たちの幸福を考えて生きる方が建設的だな。ジェームスもいつか、そのことに気づいてくれるといいが」
「きっと大丈夫ですよ。もともと頭の良い方なんですから」
「ところで、最近お前が俺にかかりきりだから、ローラの奴は寂しがってるんじゃないのか?」
「それが、そうでもないんです。私たちが大公家に来てからそろそろ一年ですが、あの子、すっかり強くなりましたよ。今では、先輩にからかわれたりしたときは、ハッキリと言い返すくらいですから」
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