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第92話
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「ああ。これもさっき言ったが、私に、新しく当主となるフレッドの補佐をしろと書かれているに違いない。父上は、私がそんなことを望んでいないなどとは考えもしないだろう。私を便利な道具としか思っていないからな」
「じゃあ、フレッド様の補佐を頼むという指示以外にも、ジェームス様のことが書かれていたら、大公様からジェームス様へ向けられている親としての愛情を信じられますか?」
「そんなもの、どこにもないよ」
「私はあると信じます」
「では、何か賭けるか?」
「何を?」
「そうだな。もし、きみの言う通りだったなら、大公家ときみの家族との間で結ばれた契約を破棄し、きみはすぐにでもここを出ていくことができるというのはどうだ? メイドを続けたいというなら、新たに契約を結び、今は実家に吸い上げられている給料を、ちゃんと全額、きみに支払われるようにしてやろう」
「悪くない話ですね。では、ジェームス様の言う通りだった場合は?」
「もちろん、賭けに敗北した代償として、それなりの罰を受けてもらう。……よし。5年間、無給で働くということにしよう。もっとも、きみにとってはそれほど辛い罰でもないかもな。無給になるということは、きみの忌々しい家族に給金が送られることもなくなるわけだから」
「そうでもありません。給金が送られてこなくなれば、憤慨したあの人たちが、お爺ちゃんとお婆ちゃんへの仕送りを止めてしまうかもしれませんからね」
「じゃあやはり、賭けをやめるか?」
「いえ。絶対に私が勝ちますから大丈夫です」
「わからないな。きみは、父上とほとんど面会したことがないし、まともに言葉を交わしたのも数える程度のはず。なのになぜ、それほど父上の人としての情を信じられる」
「厳密に言うと、私は大公様を信じているわけじゃありません。大公様を『第二の父』とまで言い、その優しさを敬愛しているエリナさんのことを信じているんです。エリナさんが心から信頼する大公様が、自分の子供に何の情も持っていないなんてこと、ありえないと思うんです」
「なんともあやふやな根拠だな。……だが、いいだろう。父上が死に、遺言状を開封する日が来たら、きみも立ち合え。その時になって初めて知るだろう。人間なんて、簡単に信用するものではないということをな」
・
・
・
それからわずか三日後。
大公様は、眠るように息を引き取られた。
そして今、大公様の執務室にて、遺言状の開封がおこなわれようとしていた。この場にいるのは、大公家長男のフレッド様。大公家次男のジェームス様。大公家の使用人を統括する執事長のエリナさん。そして、エリナさんの補佐をするという名目で、ジェームス様に連れてこられた私の4人である。
「じゃあ、フレッド様の補佐を頼むという指示以外にも、ジェームス様のことが書かれていたら、大公様からジェームス様へ向けられている親としての愛情を信じられますか?」
「そんなもの、どこにもないよ」
「私はあると信じます」
「では、何か賭けるか?」
「何を?」
「そうだな。もし、きみの言う通りだったなら、大公家ときみの家族との間で結ばれた契約を破棄し、きみはすぐにでもここを出ていくことができるというのはどうだ? メイドを続けたいというなら、新たに契約を結び、今は実家に吸い上げられている給料を、ちゃんと全額、きみに支払われるようにしてやろう」
「悪くない話ですね。では、ジェームス様の言う通りだった場合は?」
「もちろん、賭けに敗北した代償として、それなりの罰を受けてもらう。……よし。5年間、無給で働くということにしよう。もっとも、きみにとってはそれほど辛い罰でもないかもな。無給になるということは、きみの忌々しい家族に給金が送られることもなくなるわけだから」
「そうでもありません。給金が送られてこなくなれば、憤慨したあの人たちが、お爺ちゃんとお婆ちゃんへの仕送りを止めてしまうかもしれませんからね」
「じゃあやはり、賭けをやめるか?」
「いえ。絶対に私が勝ちますから大丈夫です」
「わからないな。きみは、父上とほとんど面会したことがないし、まともに言葉を交わしたのも数える程度のはず。なのになぜ、それほど父上の人としての情を信じられる」
「厳密に言うと、私は大公様を信じているわけじゃありません。大公様を『第二の父』とまで言い、その優しさを敬愛しているエリナさんのことを信じているんです。エリナさんが心から信頼する大公様が、自分の子供に何の情も持っていないなんてこと、ありえないと思うんです」
「なんともあやふやな根拠だな。……だが、いいだろう。父上が死に、遺言状を開封する日が来たら、きみも立ち合え。その時になって初めて知るだろう。人間なんて、簡単に信用するものではないということをな」
・
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それからわずか三日後。
大公様は、眠るように息を引き取られた。
そして今、大公様の執務室にて、遺言状の開封がおこなわれようとしていた。この場にいるのは、大公家長男のフレッド様。大公家次男のジェームス様。大公家の使用人を統括する執事長のエリナさん。そして、エリナさんの補佐をするという名目で、ジェームス様に連れてこられた私の4人である。
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