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第90話

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 そこまでは穏やかに言い切ってから、ジェームス様は忌々しげに言葉を続ける。

「虫のいい話だと思いませんか? 問題ある娘たちの人生を救ったとして、それで過去に傷つけた娘たちに何の影響を与えるというのです? 結局は、自分の心につけられた罪悪感という鎖の重みを少しでも軽くしたいだけだ。身勝手な若者が、身勝手な年寄りになっただけ。まったく、あれが実の父親だと思うと、吐き気がする」

 本当に吐き気がこみ上げてきているのか、ジェームス様は胸の辺りを擦りながら言った。……今までの話で、だいたいの事情は飲み込めた。私は、嘆息しながら言う。

「ジェームス様は、心の底から大公様を嫌悪しておられるのですね。だから、大公様が罪滅ぼしとしておこなっていることを、全く逆の意味で世間に知らしめることで、その名誉を徹底的に落とそうとした……」

「そういうことです。私の気持ち、理解してもらえますか?」

「……理解できないこともありませんが、幼稚だとも思います」

「幼稚?」

「ええ。確かに、大公様の過去のおこないは恥ずべきものだと思いますが、それでも、今の自分にできる形で善行を成そうとしているのに、その善行を利用してさらに名誉が落ちるように仕向けるなんて、幼稚で陰湿です。大公様のおこないが気に入らないのなら、こんなのは自己満足にすぎないと、面と向かって言うべきです」

「面と向かって言ったところで、私の言葉になど耳を貸しませんよ。あの男は、私を便利屋くらいにしか思っていない。私は放蕩者のフレッドと違い、幼少期から一度も間違いを犯さず、大公家の次男としてひたすら勉学、修練に励んできたというのに、あの男が気にかけているのは、自分によく似た長男のフレッドだけだ」

 ジェームス様の言葉から、いつの間にか敬語が消えていた。そして、端正な白い歯を強く噛みしめる音が聞こえる。それは強烈な、嫉妬と憎しみの音色だった。

「馬鹿な子ほど可愛いとよく言うが、本当なのだろうな。フレッドを門番に据え、自分の信頼する私兵たちを部下につけたのも、フレッドに期待し、今一度正しき道を教育するためだ。フレッドはフレッドで、そんな父上の愛情も知らず、いつまで門番をさせるんだと文句を垂れている。本当に、どっちもうんざりだ。馬鹿親子め」

「ジェームス様……」

「父上の寿命もあとわずかだ。少し前に遺言状をしたためていたが、それでフレッドを自分の後継者に指名するのだろう。そして、私に奴の補佐をしろと命じるに違いない。こんな馬鹿な話があるか? フレッドはきっと、私をこざかしいだけの男だと見下している。どうしてそんな相手の補佐をしなければならない!」

 溢れる感情を止められないのか、ジェームス様の声が一段大きくなる。
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