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第89話
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「ゲーム?」
「ええ。父上の善意を悪意にすり替え、その名誉を落とすゲームです。真実にたどり着いた褒美として、すべて話しましょう。あなたの予想通り、父上は欲望のために娘たちを集めたのではありません。……ブレアナ、アマンダ、ローラ、そしてエリナ。この四人に共通するものはなんですか? シンシア。考えてみてください」
そう言われ、しばし考えるが、すぐに四人全員に共通する点などないという結論になる。唯一、ブレアナとアマンダだけは、性格的に似ていると思うが。
頭の中で考えたことを、私はそのまま口に出した。
「ブレアナとアマンダは似ていますが、四人全員となると、共通点が思い浮かびません。特に、大人しいローラとアマンダは、共通どころか正反対と言った方が適切ですから」
「まあ、性格的にはそうですね。でも、四人全員の共通点、ちゃんとありますよ。……それは皆、故郷で大きな問題を抱えているということです」
「大きな問題?」
「アマンダはあの性格ですから、故郷の町でも誰彼構わずトラブルを起こし、鼻つまみ者でした。ローラは逆に、大人しすぎる性格が災いし、何でも他人の言いなり。あのままでは近い将来、誰かに利用されて酷い目にあっていたでしょう。エリナもまた、故郷で迫害に近いほど疎外され、心がボロボロに傷ついていました」
「…………」
「そして、ブレアナ。攻撃的で、道徳観念も薄く、常に他人を見下しているため、アマンダと同様に、ブレアナの周りではトラブルが絶えません。彼女については、義姉であるあなたの方が詳しいでしょう」
私は頷いた。
なるほど。言われてみれば、確かに皆、大きな問題を抱えている。
「父上は、彼女たちのような問題児を手元に置き、トラブルを起こしている故郷からはいったん距離を取らせ、規則正しい生活とメイドの仕事を通して、人間的に成長させたいと思っているのです。厳しい学校が、寄宿舎生活で生徒たちの成長を促すことがあるでしょう? 父上は、大公家でそれをやろうと考えたのですね」
「でもそれって、大公様の義務でも仕事でもありませんよね。どうしてそんなことを……」
「ただの罪滅ぼしですよ。先ほどあなたは、『大公様の悪い噂は何もかもデタラメ』と言いましたが、デタラメじゃない部分もあるのです。父上は、若い頃は本当に女好きで、上級貴族である立場も利用し、それはもう、褒められたものじゃないやり方で、娘たちを自分のものにしていたそうです」
「…………」
「それが中年になって分別がつき、さらに老齢となったことで気弱になったせいか、急に過去の所業に対する罪悪感がわいてきた。だから、若かりし日々に自分が手をつけ、今となってはどこで何をしているかも分からない娘たちへの贖罪として、彼女たちと同じ年頃の問題ある娘たちを、正しい道に導くことを思いついたのでしょう」
「ええ。父上の善意を悪意にすり替え、その名誉を落とすゲームです。真実にたどり着いた褒美として、すべて話しましょう。あなたの予想通り、父上は欲望のために娘たちを集めたのではありません。……ブレアナ、アマンダ、ローラ、そしてエリナ。この四人に共通するものはなんですか? シンシア。考えてみてください」
そう言われ、しばし考えるが、すぐに四人全員に共通する点などないという結論になる。唯一、ブレアナとアマンダだけは、性格的に似ていると思うが。
頭の中で考えたことを、私はそのまま口に出した。
「ブレアナとアマンダは似ていますが、四人全員となると、共通点が思い浮かびません。特に、大人しいローラとアマンダは、共通どころか正反対と言った方が適切ですから」
「まあ、性格的にはそうですね。でも、四人全員の共通点、ちゃんとありますよ。……それは皆、故郷で大きな問題を抱えているということです」
「大きな問題?」
「アマンダはあの性格ですから、故郷の町でも誰彼構わずトラブルを起こし、鼻つまみ者でした。ローラは逆に、大人しすぎる性格が災いし、何でも他人の言いなり。あのままでは近い将来、誰かに利用されて酷い目にあっていたでしょう。エリナもまた、故郷で迫害に近いほど疎外され、心がボロボロに傷ついていました」
「…………」
「そして、ブレアナ。攻撃的で、道徳観念も薄く、常に他人を見下しているため、アマンダと同様に、ブレアナの周りではトラブルが絶えません。彼女については、義姉であるあなたの方が詳しいでしょう」
私は頷いた。
なるほど。言われてみれば、確かに皆、大きな問題を抱えている。
「父上は、彼女たちのような問題児を手元に置き、トラブルを起こしている故郷からはいったん距離を取らせ、規則正しい生活とメイドの仕事を通して、人間的に成長させたいと思っているのです。厳しい学校が、寄宿舎生活で生徒たちの成長を促すことがあるでしょう? 父上は、大公家でそれをやろうと考えたのですね」
「でもそれって、大公様の義務でも仕事でもありませんよね。どうしてそんなことを……」
「ただの罪滅ぼしですよ。先ほどあなたは、『大公様の悪い噂は何もかもデタラメ』と言いましたが、デタラメじゃない部分もあるのです。父上は、若い頃は本当に女好きで、上級貴族である立場も利用し、それはもう、褒められたものじゃないやり方で、娘たちを自分のものにしていたそうです」
「…………」
「それが中年になって分別がつき、さらに老齢となったことで気弱になったせいか、急に過去の所業に対する罪悪感がわいてきた。だから、若かりし日々に自分が手をつけ、今となってはどこで何をしているかも分からない娘たちへの贖罪として、彼女たちと同じ年頃の問題ある娘たちを、正しい道に導くことを思いついたのでしょう」
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