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第87話

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 そして私は、この思いつきを確かめずにはいられなくなった。

 だから、エリナさんに問う。

「あの、エリナさん。今、ジェームス様がどこにいるかわかりますか?」





 エリナさんに教えてもらった通り、ジェームス様は大公様の執務室に一人でいた。大公様が現在寝たきりで、言動も曖昧模糊なため、本来大公様がこなすはずの仕事を、ジェームス様が代行しているとのことだ。

 ノックをし、入室を許された私は、無駄な問答は不要とばかりに問う。

「ジェームス様。お伺いしたいことがあるのですが、お答えいただけますでしょうか」

 手元の書類に何かを記載しながら、ジェームス様は視線を上げることなく返答する。

「それは、『お伺いしたいこと』の内容によりますね」

 当然のことだ。しかし、今から私がする質問に、わずかでも真実が含まれているとしたら、ジェームス様の顔色は変わるだろう。それをもって返答の代わりと考えることもできるため、私は臆せず尋ねた。

「単刀直入に言います。大公様が、世間の人々に好色家と思われるように仕向けているのはあなたですか?」

「どういう意味です?」

 ジェームス様は、本当に私が何を言っているか分からないという雰囲気だが、そのそぶりに、私は違和感を抱いた。私の質問の意味が本当にわからないなら、わからないなりにムッとするのが普通じゃないだろうか。約束もなくやって来た下っ端メイドの小娘に『お前は何か策略をしているのか』と問われているのと同義なのだから。

 なので、もう少し踏み込んだ発言をすることにする。

「もっと具体的に言うのなら、大公様は世間の人々が思っているような好色家ではなく、私たちみたいな娘を招集しているのも、何か別の目的があるからだと思うんです。そしてあなたは、どういうわけか、その『何か別の目的』が皆に伝わらないようにし、反対に大公様の悪い噂を流している……と私は考えています」

「ほう。どうしてそう思うのですか?」

 ジェームス様は、いまだに書類仕事を続けたままで、こちらに目を向けない。しかし、ペンを動かす速度が、ほんの少しだけ鈍った気がした。

「だって、変でしょう? 私もローラもアマンダも、一回寝室に呼ばれたっきりで、それ以後は何もありません。そのたった一回の面会でも、大公様は私と話をするだけでした。アマンダも、お説教されただけで追い返されたとジェームス様ご自身が言っていましたね。あとはローラですが、寝室に行って戻って来るまでの時間を考えると……」

「恐らく何もされていない……と言いたいのですね」
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