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第86話
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「でも、私もエリナさんも、実際には何もされていませんし、特にエリナさんに関しては、大公様は傷ついたエリナさんの心を親身になってお慰めになったわけですから、表沙汰になった方が良い気すらしますけど」
「そうね。でも、さっきも言ったけど、すべての娘にそのように接したかは分からないから……。それに基本的には、寝室のようなプライベートな空間でのことは秘め事にしておくべきだと思うし、高貴なる方に仕える者の礼儀として、あれこれと吹聴しないのは正しいことだと思うわ」
「だからエリナさんは、皆に何を言われても反論せず、ずっと黙っていたんですね」
「ええ。結局こうして、あなたに喋ってしまったけど……。それにこのまま、大公様の名誉が落ちていくのも気がかりなの。世間の人がいかに好色家と嘲ったとしても、私にとってはお優しい大公様だから、できることなら、失った名誉を少しでも回復して差し上げたいわ。大公様が、とこしえの眠りにつかれる前に……」
とこしえの眠り――
つまり、死没。
寝たきりで、排せつすら困難な状況から察するに、もうそれほど長くは生きられないのではと思っていたけど、毎日接しているエリナさんがこのような言葉を出すのだから、大公様の死は、ほとんど間近に迫っているのかもしれない。
沈痛な面持ちで俯いたエリナさんと同じように、私も顎を引いて地面を見つめる。『このまま、大公様の名誉が落ちていくのが気がかり』か……。敬愛する大公様にずっと仕えてきたエリナさんだからこそ、こんな気持ちになれるに違いない。その想いを心から共有できるのは、大公様の家族くらいのものだろう。
家族……
大公様の家族……
フレッド様だって、軽口をたたきながらも、内心では大公様が領民に嘲られていることを悲しんでいるんだろうな。……ジェームス様は? あの人は前に『父上の名が落ちても別に構わない』と言っていた。
何故、そんなことを?
もう長い間、放蕩生活の罰として門番を命じられているフレッド様と違い、常にそばに置かれ、あらゆる意味で頼られているのに。
私やエリナさんのような娘たちを集めてくる役目などをやらされて、それで、大公様を憎んでいるんだろうか? ……でも実際には、大公様は欲望を満たすために娘たちを求めていたわけではない可能性が高い。大公様の側近中の側近であるジェームス様なら、そんなことわかりきっているはずだ。
……
…………
………………!
しばし考え、私の中に、荒唐無稽な思い付きが閃いた。あまりにも無茶苦茶な思い付きなので、『そんな馬鹿なこと、あるわけがない』とも同時に思うが、これですべてのつじつまが合うとも思う。
「そうね。でも、さっきも言ったけど、すべての娘にそのように接したかは分からないから……。それに基本的には、寝室のようなプライベートな空間でのことは秘め事にしておくべきだと思うし、高貴なる方に仕える者の礼儀として、あれこれと吹聴しないのは正しいことだと思うわ」
「だからエリナさんは、皆に何を言われても反論せず、ずっと黙っていたんですね」
「ええ。結局こうして、あなたに喋ってしまったけど……。それにこのまま、大公様の名誉が落ちていくのも気がかりなの。世間の人がいかに好色家と嘲ったとしても、私にとってはお優しい大公様だから、できることなら、失った名誉を少しでも回復して差し上げたいわ。大公様が、とこしえの眠りにつかれる前に……」
とこしえの眠り――
つまり、死没。
寝たきりで、排せつすら困難な状況から察するに、もうそれほど長くは生きられないのではと思っていたけど、毎日接しているエリナさんがこのような言葉を出すのだから、大公様の死は、ほとんど間近に迫っているのかもしれない。
沈痛な面持ちで俯いたエリナさんと同じように、私も顎を引いて地面を見つめる。『このまま、大公様の名誉が落ちていくのが気がかり』か……。敬愛する大公様にずっと仕えてきたエリナさんだからこそ、こんな気持ちになれるに違いない。その想いを心から共有できるのは、大公様の家族くらいのものだろう。
家族……
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フレッド様だって、軽口をたたきながらも、内心では大公様が領民に嘲られていることを悲しんでいるんだろうな。……ジェームス様は? あの人は前に『父上の名が落ちても別に構わない』と言っていた。
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……
…………
………………!
しばし考え、私の中に、荒唐無稽な思い付きが閃いた。あまりにも無茶苦茶な思い付きなので、『そんな馬鹿なこと、あるわけがない』とも同時に思うが、これですべてのつじつまが合うとも思う。
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