義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
上 下
87 / 105

第86話

しおりを挟む
「でも、私もエリナさんも、実際には何もされていませんし、特にエリナさんに関しては、大公様は傷ついたエリナさんの心を親身になってお慰めになったわけですから、表沙汰になった方が良い気すらしますけど」

「そうね。でも、さっきも言ったけど、すべての娘にそのように接したかは分からないから……。それに基本的には、寝室のようなプライベートな空間でのことは秘め事にしておくべきだと思うし、高貴なる方に仕える者の礼儀として、あれこれと吹聴しないのは正しいことだと思うわ」

「だからエリナさんは、皆に何を言われても反論せず、ずっと黙っていたんですね」

「ええ。結局こうして、あなたに喋ってしまったけど……。それにこのまま、大公様の名誉が落ちていくのも気がかりなの。世間の人がいかに好色家と嘲ったとしても、私にとってはお優しい大公様だから、できることなら、失った名誉を少しでも回復して差し上げたいわ。大公様が、とこしえの眠りにつかれる前に……」

 とこしえの眠り――

 つまり、死没。

 寝たきりで、排せつすら困難な状況から察するに、もうそれほど長くは生きられないのではと思っていたけど、毎日接しているエリナさんがこのような言葉を出すのだから、大公様の死は、ほとんど間近に迫っているのかもしれない。

 沈痛な面持ちで俯いたエリナさんと同じように、私も顎を引いて地面を見つめる。『このまま、大公様の名誉が落ちていくのが気がかり』か……。敬愛する大公様にずっと仕えてきたエリナさんだからこそ、こんな気持ちになれるに違いない。その想いを心から共有できるのは、大公様の家族くらいのものだろう。

 家族……

 大公様の家族……

 フレッド様だって、軽口をたたきながらも、内心では大公様が領民に嘲られていることを悲しんでいるんだろうな。……ジェームス様は? あの人は前に『父上の名が落ちても別に構わない』と言っていた。

 何故、そんなことを?

 もう長い間、放蕩生活の罰として門番を命じられているフレッド様と違い、常にそばに置かれ、あらゆる意味で頼られているのに。

 私やエリナさんのような娘たちを集めてくる役目などをやらされて、それで、大公様を憎んでいるんだろうか? ……でも実際には、大公様は欲望を満たすために娘たちを求めていたわけではない可能性が高い。大公様の側近中の側近であるジェームス様なら、そんなことわかりきっているはずだ。

 ……
 …………
 ………………!

 しばし考え、私の中に、荒唐無稽な思い付きが閃いた。あまりにも無茶苦茶な思い付きなので、『そんな馬鹿なこと、あるわけがない』とも同時に思うが、これですべてのつじつまが合うとも思う。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

処理中です...