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第80話

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 ハッキリ言って、私はエリナさんのような人格者じゃない。だからもちろん、ブレアナも、グロリアも、父も、許すことはできない。だけど、このまま彼女たちを憎み続けることに何の意味があるのだろうとも思う。

 そんな心のもやもやを、私は誰かに聞いてもらいたくなり、我慢ができなくなった。その時私の頭に浮かんだのは、フレッド様の顔である。どうしてだかわからないが、他の誰でもなく、フレッド様に、私の心の内――そのすべてを聞いてほしかった。

 当然、心の内のすべてを話すということは、私が本物のブレアナではなく、身代わりのシンシアであるということを打ち明けることになる。……私は少しだけ迷ったが、フレッド様にすべてを話した。フレッド様なら、秘密を知ったとしても、私への態度が変わることはないと信じたのである。





「……そうか。祖父母の生活を人質同然にされて、義妹の身代わりをさせられるとはな。継母はもちろん、実の父親も味方になってくれないとは、つらかっただろう、ブレ……いや、シンシア」

 私が信頼した通り、私たちの家族――ひいては私も大公家を欺いたことになるというのに、フレッド様は少しも態度を硬化させなかった。私は、心の内を温かいもので満たしながら、そっと頷く。

「最初は、本当につらかったです。でも今となっては、実家にいた頃よりずっと充実した日々を過ごせていますし、少しずつブレアナたちに対する憎しみが薄れていくのも感じるんです。結局、大公様には指一本触れられていませんし」

「だが、それは結果論だ。俺は正直言って、お前の家族が許せないよ。今から出て行って、大公家を欺いた罪でしょっ引いてやろうか。……と言いたいところだが、そんなことが父上の耳に入ったら、お前も大公家を欺いた一人として処罰せざるを得なくなるんだよな」

「そうですね。だから今のところは、これまで通りでいいと思います。それに私、じっくりと時間をかけて考えてみたいんです」

「何を?」

「何か嫌なことをされて、言われて、それで復讐するのが正しいのか、本当に意味のあることなのかって。エリナさんの問いを、自分自身の問いとして、心に語りかけ続けたいんです」

「それは立派な心がけだが、なかなかエリナのような境地に至ることは難しいだろうな。陥れられ、あと少しで死ぬところだったのに、自分の行動を顧みて、さらにアマンダやミシェルの減刑を嘆願するなんて、ある意味まともじゃないよ。たぶん、あいつは天使か何かの生まれ変わりだよ」

「そうですね。でも、私だって天使か何かの生まれ変わりかもしれませんよ?」
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