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第78話

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「大公様。しでかしたことがしでかしたことですから、厳罰は必要だと思います。しかし、私はいたずらに彼女たちを傷つけることは望みません。どうか、血なまぐさいことにならずに事が収まるよう、お取りはからいください」

 その寛容な言葉に、私も大公様も驚いたが、もっと驚いたのはミシェルさんのようだった。……それだけではなく、ミシェルさんはプライドを傷つけられたようでもあった。固く閉じられていた瞳をカッと見開き、エリナさんに食って掛かる。

「馬鹿にしないでよ。もとはと言えば、執事長に上り詰めたいと願った私の欲でこれだけのことになったんだから、拷問でも何でも受けてやるわ。エリナ、あんたに情けなんてかけられたくない」

「ミシェル……」

「善人づらして、心の中では私を笑ってるんでしょ? 落ちぶれた商家の娘が、再起を図って大公家で成り上がろうとして、それで無様に失敗して、いい気味だって思ってるんでしょ? もっと正直になりなさいよ。いつも言葉の足りないところも嫌いだけど、そういう偽善者ぶりが一番鼻につくわ。本当に、あんたがずっと大嫌いだった」

「…………」

「あんたも私のこと、内心では嫌いだったでしょう? 部屋に誘っても、一度だって来なかったものね。で、挙句の果てに私の我欲に巻き込まれ、あわや濡れ衣で処刑されるところだった。不愉快でしょ? 腹が立つでしょ? 本当は私に復讐したいんでしょ? そこの近衛に剣でも借りて、私を切り刻んでみたら? きっと楽しいわよ」

 自暴自棄になった、痛々しい姿だった。

 そんなミシェルさんに、エリナさんはつぶやく。

「そんなことをして、何の意味があるの?」

 以前、エリナさんと雑談をしようとしたときに『この会話に何の意味があるの?』と問われ、困ってしまったことがあるが、今の言い方は、その時の言い方にそっくりだった。しかし、そこで話を打ち切ってしまったその時とは違い、エリナさんは静かに、ただ静かに、ミシェルさんに問いを続ける。

「苦しめられたら復讐して、それで幸せになるの? 傷つけられたら傷つけ返して、それで楽しいの? 私はそうは思わない」

「…………」

「ミシェル。今、私の胸の中にあるあなたとアマンダへの思いは、こんなことになってしまって残念だっていう気持ちと、私がもっとうまくあなたたちと付き合えれば、こうはならなかったかもしれないっていう後悔だけよ」

「…………」

「一度もあなたの部屋に行かなかったのは、あなたが嫌いなんじゃなくて、二人きりになって何を話せばいいか分からないからよ。それに私は話すのが下手だから、明るくて話すのが上手なあなたと向き合うと、自分の駄目さ加減を思い知らされて、つらかったの。……でも、今ではもっと積極的にあなたと関わるべきだったと思ってる」

「…………」
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