79 / 95
第78話
しおりを挟む
「大公様。しでかしたことがしでかしたことですから、厳罰は必要だと思います。しかし、私はいたずらに彼女たちを傷つけることは望みません。どうか、血なまぐさいことにならずに事が収まるよう、お取りはからいください」
その寛容な言葉に、私も大公様も驚いたが、もっと驚いたのはミシェルさんのようだった。……それだけではなく、ミシェルさんはプライドを傷つけられたようでもあった。固く閉じられていた瞳をカッと見開き、エリナさんに食って掛かる。
「馬鹿にしないでよ。もとはと言えば、執事長に上り詰めたいと願った私の欲でこれだけのことになったんだから、拷問でも何でも受けてやるわ。エリナ、あんたに情けなんてかけられたくない」
「ミシェル……」
「善人づらして、心の中では私を笑ってるんでしょ? 落ちぶれた商家の娘が、再起を図って大公家で成り上がろうとして、それで無様に失敗して、いい気味だって思ってるんでしょ? もっと正直になりなさいよ。いつも言葉の足りないところも嫌いだけど、そういう偽善者ぶりが一番鼻につくわ。本当に、あんたがずっと大嫌いだった」
「…………」
「あんたも私のこと、内心では嫌いだったでしょう? 部屋に誘っても、一度だって来なかったものね。で、挙句の果てに私の我欲に巻き込まれ、あわや濡れ衣で処刑されるところだった。不愉快でしょ? 腹が立つでしょ? 本当は私に復讐したいんでしょ? そこの近衛に剣でも借りて、私を切り刻んでみたら? きっと楽しいわよ」
自暴自棄になった、痛々しい姿だった。
そんなミシェルさんに、エリナさんはつぶやく。
「そんなことをして、何の意味があるの?」
以前、エリナさんと雑談をしようとしたときに『この会話に何の意味があるの?』と問われ、困ってしまったことがあるが、今の言い方は、その時の言い方にそっくりだった。しかし、そこで話を打ち切ってしまったその時とは違い、エリナさんは静かに、ただ静かに、ミシェルさんに問いを続ける。
「苦しめられたら復讐して、それで幸せになるの? 傷つけられたら傷つけ返して、それで楽しいの? 私はそうは思わない」
「…………」
「ミシェル。今、私の胸の中にあるあなたとアマンダへの思いは、こんなことになってしまって残念だっていう気持ちと、私がもっとうまくあなたたちと付き合えれば、こうはならなかったかもしれないっていう後悔だけよ」
「…………」
「一度もあなたの部屋に行かなかったのは、あなたが嫌いなんじゃなくて、二人きりになって何を話せばいいか分からないからよ。それに私は話すのが下手だから、明るくて話すのが上手なあなたと向き合うと、自分の駄目さ加減を思い知らされて、つらかったの。……でも、今ではもっと積極的にあなたと関わるべきだったと思ってる」
「…………」
その寛容な言葉に、私も大公様も驚いたが、もっと驚いたのはミシェルさんのようだった。……それだけではなく、ミシェルさんはプライドを傷つけられたようでもあった。固く閉じられていた瞳をカッと見開き、エリナさんに食って掛かる。
「馬鹿にしないでよ。もとはと言えば、執事長に上り詰めたいと願った私の欲でこれだけのことになったんだから、拷問でも何でも受けてやるわ。エリナ、あんたに情けなんてかけられたくない」
「ミシェル……」
「善人づらして、心の中では私を笑ってるんでしょ? 落ちぶれた商家の娘が、再起を図って大公家で成り上がろうとして、それで無様に失敗して、いい気味だって思ってるんでしょ? もっと正直になりなさいよ。いつも言葉の足りないところも嫌いだけど、そういう偽善者ぶりが一番鼻につくわ。本当に、あんたがずっと大嫌いだった」
「…………」
「あんたも私のこと、内心では嫌いだったでしょう? 部屋に誘っても、一度だって来なかったものね。で、挙句の果てに私の我欲に巻き込まれ、あわや濡れ衣で処刑されるところだった。不愉快でしょ? 腹が立つでしょ? 本当は私に復讐したいんでしょ? そこの近衛に剣でも借りて、私を切り刻んでみたら? きっと楽しいわよ」
自暴自棄になった、痛々しい姿だった。
そんなミシェルさんに、エリナさんはつぶやく。
「そんなことをして、何の意味があるの?」
以前、エリナさんと雑談をしようとしたときに『この会話に何の意味があるの?』と問われ、困ってしまったことがあるが、今の言い方は、その時の言い方にそっくりだった。しかし、そこで話を打ち切ってしまったその時とは違い、エリナさんは静かに、ただ静かに、ミシェルさんに問いを続ける。
「苦しめられたら復讐して、それで幸せになるの? 傷つけられたら傷つけ返して、それで楽しいの? 私はそうは思わない」
「…………」
「ミシェル。今、私の胸の中にあるあなたとアマンダへの思いは、こんなことになってしまって残念だっていう気持ちと、私がもっとうまくあなたたちと付き合えれば、こうはならなかったかもしれないっていう後悔だけよ」
「…………」
「一度もあなたの部屋に行かなかったのは、あなたが嫌いなんじゃなくて、二人きりになって何を話せばいいか分からないからよ。それに私は話すのが下手だから、明るくて話すのが上手なあなたと向き合うと、自分の駄目さ加減を思い知らされて、つらかったの。……でも、今ではもっと積極的にあなたと関わるべきだったと思ってる」
「…………」
174
お気に入りに追加
974
あなたにおすすめの小説
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
【完結済み】だって私は妻ではなく、母親なのだから
鈴蘭
恋愛
結婚式の翌日、愛する夫からナターシャに告げられたのは、愛人がいて彼女は既に懐妊していると言う事実だった。
子はナターシャが産んだ事にする為、夫の許可が下りるまで、離れから出るなと言われ閉じ込められてしまう。
その離れに、夫は見向きもしないが、愛人は毎日嫌味を言いに来た。
幸せな結婚生活を夢見て嫁いで来た新妻には、あまりにも酷い仕打ちだった。
完結しました。
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる