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第71話

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「フレッド。門番の役目を他人に押し付け、こんな時間まで何をしていた。執事長代理のミシェルから報告があったぞ。お前が近頃、そっちのブレアナを連れまわして何かやっていると」

 たぶん、私が正門から戻って来ず、フレッド様と共に外へ出かけたことを知ったアマンダがミシェルさんに報告し、そのミシェルさんが、さらにジェームス様に報告したのだろう。もともとフレッド様と関係の悪いジェームス様は、まさに怒り心頭と言った感じである。

 しかし、フレッド様は冷静だった。『別に俺がブレアナを連れまわしたわけじゃない』などと反論することもなく、長時間にわたって外に出ていた理由を端的に説明する。

「勝手に持ち場を離れた罰なら、後でいくらでも受けるよ。実は、父上に毒を盛ったのはエリナではなく、別人がエリナに罪を着せるためにやった可能性があるから、調査していたんだ。……お前も、今回のことは、なんだか妙だと思ってはいただろう?」

「それは……」

 フレッド様は否定せず、言いよどんだ。これは肯定と受け取っていいだろう。私はフレッド様の言葉を引き継ぐように、単刀直入に言う。

「ハッキリ言います。エリナさんを陥れたのはアマンダです。ここに、大公様に盛られたのと同じ毒を、数日前にアマンダが購入した記録があります」

 苦労して手に入れた証拠を、私はジェームス様に手渡した。ジェームス様はそれを念入りに確認し、頷く。

「確かに。しかし、毒の入った料理を作ったのはエリナです。アマンダはどうやって、エリナの目を盗んで毒を混ぜ込んだのですか?」

「それについては確たる証拠はありませんが、混ぜ込むのが可能か不可能かと問われれば、可能です。厨房には隠れる場所がたくさんありますし、エリナさんは一人で調理をしていますから、一瞬たりとも料理や食材から目を離さずにいることは不可能です。アマンダの度胸と行動力なら、素早く毒を垂らして逃げることは難しくないはず」

「それはそうでしょうが、そんな理屈では『確実にアマンダがやった』という状況証拠にはなりませんね」

「でも、『確実にエリナさんがやった』という状況証拠に対する、一種の反証にはなりえます。何より、エリナさんが毒を購入した証拠はないのに、アマンダが毒を購入した証拠はハッキリと今ここにあるんですから。これは、状況証拠よりずっと強力だと思いますけど」

 私の言葉を受けて、ジェームス様は微笑した。

「ふふ。まったく、口が回りますね。しかしアマンダに、すべてを失うリスクを抱えてまで父上に毒を盛る動機があるとは思えませんが。父上に寝室に呼ばれた際も、いくつかお説教をされて追い出されただけだったようですし」
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