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第69話

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「本当に、あんたとの相性は最悪だわ。顔も声も態度も考え方も、何もかも気に入らない。私はね、気に入らない奴や邪魔者は、痛い目にあわせてやらなきゃ我慢ならないの。見てなさい。あんたがどんな望みや夢を抱いていても、必ず邪魔してやるから」

 気に入らない奴や邪魔者は、痛い目にあわせてやらなきゃ我慢ならない――

 だから、エリナさんを陥れたの?

 そんなくだらない理由でエリナさんを苦しめたのなら、絶対に許さない。

 何もかも明るみにして、報いを受けさせてやる。

 思わずそう宣言したくなったが、アマンダは言いたいことを言って背を翻したので、私は何も言わなかった。ただ、胸の内に深い怒りと決意だけを抱え、フレッド様のいる正門に向かったのだった。





「……なるほどな。アマンダの性格を考慮して、調査対象を絞り込むってわけか。どっちみち、このままじゃ時間切れなんだ。いちかばちか、賭けてみる価値はあるだろうな」

 正門にてフレッド様と合流した私は、昨晩考えた推論を打ち明けた。フレッド様はすぐに納得し、私たちは町に出る。……今頃、私がなかなか戻ってこないことに気がついたアマンダが、ミシェルさんに報告をしている頃だろう。これで、お屋敷に帰ったら相当な罰を受けることになるだろうが、今はそんなことはどうでもよかった。

 先のことは考えず、フレッド様と手分けして、昨日の推論通りに『町の中心部からはある程度距離があり、それでいて遠すぎず、なおかつ人気のない店』を片っ端から調査していく。

 領内すべての薬材商人を調べることに比べれば、対象は十分の一以下になったが、それでも調べなければならない店は決して少なくはなく、店から店への移動時間もあるので、見る見るうちに昼となり。さらに、昇ったばかりの太陽は、休むことなど知らないように傾いていった。

 焦り、急いでいるときというのは、どうしてこれほど時間が流れるのが早いのか。結果論だが、強引にお屋敷を脱出して、朝から調査を始められてよかった。昼下がりから始めていたのでは、想定の半分しか進まなかっただろう。

 なんとしても、今日一日で調査を終えなければならない。ミシェルさんの言いつけを破り、仕事をさぼる形でお屋敷の外に出た私は、間違いなくしばらくの間は外に出られなくなるからだ。フレッド様だって、大公様から任せられた門番の役目を他の人に任せているのだから、そろそろ何かお叱りを受ける可能性がある。

 私たちは、傾いていく太陽と競争するように、ひとつ、またひとつと薬材商人を調査していく。……だが、いくら調査してもアマンダの影はなく、そうなるとだんだん弱気になってくるもので、私は『もしかして私の推論は完全な的外れだったのでは』と思い始めた。
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