69 / 105
第68話
しおりを挟む
しかしアマンダは、私を解放しなかった。そして、責め立てる代わりに、思ってもみなかった話を始めたのである。
「あんた、やけにフレッド様と親しくしてるけど、あの人に取り入ろうとでも思ってるわけ? なるほど。大公様はもうほとんどボケちゃって、女に手を出す元気もないから、その息子をたらし込んで甘い汁をすすろうって魂胆なのね」
くだらないことを。フレッド様に好意はあるが、そんな野心はほんのわずかだってない。こんなことを言う人間の相手をするのは馬鹿らしいが、無視して行こうとすれば、また引き留められるだろう。だが、何と言えばアマンダが納得するかすぐには思いつかず、私は呆れたように問いかけるしかなかった。
「あなた、そんなことばかり考えているの?」
その言い方にカチンときたのか、アマンダの眉が吊り上がる。
「考えてちゃ悪い? 私は成り上がるためにここに来たのよ。大公様があのザマだから、一時は息子のフレッド様かジェームス様に取り入ることも真剣に考えたわ。でも駄目ね。フレッド様はいつまでも門番をやらされてるし、ジェームス様も大公様と距離がある。私の予想では、あの二人、どっちも大公家を継がせてもらえないわ」
長男、次男ともに家を継ぐことができないなんて事態、あるのだろうか? しかし、とにかく今はそれどころではないのだ。一刻も早く薬材商人の調査に向かいたい。そんな気持ちが表に出たのか、私は興味なさげに「そう」と返事をする。そのおざなりな反応が癇に障ったらしく、さらにアマンダの眉の角度が上がった。
「なにその適当な態度。私なんかと話すのはかったるいってこと?」
ああもう、本当に面倒な性格なんだから。そもそもアマンダは私が気に入らないのだから、たぶんどんな返事をしても機嫌が良くなることはないのだろう。だったら、いっそのこと、これ以上私と一緒にいたくないと思わせるほど怒らせてやろうか。その方が案外スムーズにこの場を離れられるかもしれない。
よし、やろう。
そう決断すると、私は心のうちに隠していた刃をむき出しにして突き付けた。
「……そうよ。あなたみたいなのと話している時間がもったいないの。だいたい、お互いの相性が最悪なのはもうわかりきってるんだから、無駄にコミュニケーションしない方がベストでしょ? わかったら、どこかに行ってちょうだい。それが嫌ならせめて、私があなたのそばから離れるのを邪魔しないで」
これまで私が比較的穏やかに返答していただけに、いきなり攻撃的になったことで、アマンダの顔が一瞬で激しい怒りに染まる。その怒りを、アマンダは毒のように口から吐き出した。
「あんた、やけにフレッド様と親しくしてるけど、あの人に取り入ろうとでも思ってるわけ? なるほど。大公様はもうほとんどボケちゃって、女に手を出す元気もないから、その息子をたらし込んで甘い汁をすすろうって魂胆なのね」
くだらないことを。フレッド様に好意はあるが、そんな野心はほんのわずかだってない。こんなことを言う人間の相手をするのは馬鹿らしいが、無視して行こうとすれば、また引き留められるだろう。だが、何と言えばアマンダが納得するかすぐには思いつかず、私は呆れたように問いかけるしかなかった。
「あなた、そんなことばかり考えているの?」
その言い方にカチンときたのか、アマンダの眉が吊り上がる。
「考えてちゃ悪い? 私は成り上がるためにここに来たのよ。大公様があのザマだから、一時は息子のフレッド様かジェームス様に取り入ることも真剣に考えたわ。でも駄目ね。フレッド様はいつまでも門番をやらされてるし、ジェームス様も大公様と距離がある。私の予想では、あの二人、どっちも大公家を継がせてもらえないわ」
長男、次男ともに家を継ぐことができないなんて事態、あるのだろうか? しかし、とにかく今はそれどころではないのだ。一刻も早く薬材商人の調査に向かいたい。そんな気持ちが表に出たのか、私は興味なさげに「そう」と返事をする。そのおざなりな反応が癇に障ったらしく、さらにアマンダの眉の角度が上がった。
「なにその適当な態度。私なんかと話すのはかったるいってこと?」
ああもう、本当に面倒な性格なんだから。そもそもアマンダは私が気に入らないのだから、たぶんどんな返事をしても機嫌が良くなることはないのだろう。だったら、いっそのこと、これ以上私と一緒にいたくないと思わせるほど怒らせてやろうか。その方が案外スムーズにこの場を離れられるかもしれない。
よし、やろう。
そう決断すると、私は心のうちに隠していた刃をむき出しにして突き付けた。
「……そうよ。あなたみたいなのと話している時間がもったいないの。だいたい、お互いの相性が最悪なのはもうわかりきってるんだから、無駄にコミュニケーションしない方がベストでしょ? わかったら、どこかに行ってちょうだい。それが嫌ならせめて、私があなたのそばから離れるのを邪魔しないで」
これまで私が比較的穏やかに返答していただけに、いきなり攻撃的になったことで、アマンダの顔が一瞬で激しい怒りに染まる。その怒りを、アマンダは毒のように口から吐き出した。
152
お気に入りに追加
1,026
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
身代わりで嫁いだ偽物の私が本物になるまで
めぐめぐ
恋愛
幼い頃、母を亡くしたテレシアは、弟とともに、ベーレンズ伯爵家に仕えていた。
しかしテレシアが仕えているベーレンズ伯爵家の一人娘シャルロッテに突然、魔術師であるトルライン侯爵家ヴェッセルに嫁げという王命が下るが、魔術師との結婚を嫌がったシャルロッテは家を飛び出し行方不明になってしまう。
仕えていた主が失踪し責任を負わされたテレシアは、シャルロッテと偽ってヴェッセルの元に嫁ぐように命令されてしまう。
何とかバレずに、ヴェッセルと婚姻を結ぶことに成功したテレシアだったが、彼の弟を名乗る青年チェスに、シャルロッテではないことを見抜かれてしまい――
秘密がテーマのコンテストに応募した作品です。
他サイトにも転記しています。
※2万字ぐらいなので展開は早いです。
※設定はゆるゆるです。頭空っぽでお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる