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第68話

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 しかしアマンダは、私を解放しなかった。そして、責め立てる代わりに、思ってもみなかった話を始めたのである。

「あんた、やけにフレッド様と親しくしてるけど、あの人に取り入ろうとでも思ってるわけ? なるほど。大公様はもうほとんどボケちゃって、女に手を出す元気もないから、その息子をたらし込んで甘い汁をすすろうって魂胆なのね」

 くだらないことを。フレッド様に好意はあるが、そんな野心はほんのわずかだってない。こんなことを言う人間の相手をするのは馬鹿らしいが、無視して行こうとすれば、また引き留められるだろう。だが、何と言えばアマンダが納得するかすぐには思いつかず、私は呆れたように問いかけるしかなかった。

「あなた、そんなことばかり考えているの?」

 その言い方にカチンときたのか、アマンダの眉が吊り上がる。

「考えてちゃ悪い? 私は成り上がるためにここに来たのよ。大公様があのザマだから、一時は息子のフレッド様かジェームス様に取り入ることも真剣に考えたわ。でも駄目ね。フレッド様はいつまでも門番をやらされてるし、ジェームス様も大公様と距離がある。私の予想では、あの二人、どっちも大公家を継がせてもらえないわ」

 長男、次男ともに家を継ぐことができないなんて事態、あるのだろうか? しかし、とにかく今はそれどころではないのだ。一刻も早く薬材商人の調査に向かいたい。そんな気持ちが表に出たのか、私は興味なさげに「そう」と返事をする。そのおざなりな反応が癇に障ったらしく、さらにアマンダの眉の角度が上がった。

「なにその適当な態度。私なんかと話すのはかったるいってこと?」

 ああもう、本当に面倒な性格なんだから。そもそもアマンダは私が気に入らないのだから、たぶんどんな返事をしても機嫌が良くなることはないのだろう。だったら、いっそのこと、これ以上私と一緒にいたくないと思わせるほど怒らせてやろうか。その方が案外スムーズにこの場を離れられるかもしれない。

 よし、やろう。

 そう決断すると、私は心のうちに隠していた刃をむき出しにして突き付けた。

「……そうよ。あなたみたいなのと話している時間がもったいないの。だいたい、お互いの相性が最悪なのはもうわかりきってるんだから、無駄にコミュニケーションしない方がベストでしょ? わかったら、どこかに行ってちょうだい。それが嫌ならせめて、私があなたのそばから離れるのを邪魔しないで」

 これまで私が比較的穏やかに返答していただけに、いきなり攻撃的になったことで、アマンダの顔が一瞬で激しい怒りに染まる。その怒りを、アマンダは毒のように口から吐き出した。
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