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第66話

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 そんなことを思っているうちに夜は更け、あっという間に次の日がやって来た。本音を言えば、昨晩のうちに考えた推論を元に、すぐにでも薬材商人の調査を始めたかったが、さすがに堂々とお屋敷を抜け出すわけにもいかず、いつも通り、フレッド様へお弁当を持って行ってから、その流れで外に出ようと思っていた。

 だが……

「ブレアナ。今日からフレッド様へのお弁当はアマンダに持って行ってもらうわ」

 突然の、ミシェルさんからの宣告。

 どうして急に? 

 ……どうしても何もない。きっと、アマンダがミシェルさんに告げ口したのだろう。それでもたぶん、私とフレッド様が薬材商人の調査をしていることまでは、アマンダは分かっていないと思う。もしそうならば昨日、もっと焦った態度を見せたはずだ。きっと、私が仕事を放りだして外出しているのが気に入らないに違いない。

 アマンダは驚いている私を見て、にんまりと嘲りの笑みを浮かべていた。腹立たしい笑みだったが、同時にホッとする。やっぱり、薬材商人の調査には気がついてないようだ。気がついていたら、こんな子供じみた嘲笑などせず、よりハッキリとした敵意を込めた目で私を見ると思うから。

 もしもアマンダが、私とフレッド様がしていることに気づいたら、より直接的な妨害をしてくる可能性が高い。そうなれば、状況はもっと悪くなる。だから、これ以上疑われないように、私は「わかりました」と返事をして、今回の沙汰を大人しく受け入れるふりをした。そして、すぐにこの場を離れようとする。

 しかし、アマンダよりはるかに鋭いミシェルさんは、その神妙さを不可解に思ったのか、私を呼び止めた。

「ちょっと待ちなさい。随分素直に納得するのね、ブレアナ。普通、今までずっと続けてきた役目を変えられるときは、どうしてか理由を聞きたくなるものだと思うけど」

 その通りだ。しまった。波風を立てないようにしようとするあまり、逆に不自然になってしまった。ここで、次に発する言葉を間違えれば、アマンダよりずっと恐ろしいミシェルさんを敵に回すことになる。それだけは絶対に避けたい。私は思考を巡らし、なおかつ、これ以上あやしまれないように素早く返答した。

「……心当たりがありますので。フレッド様のお弁当係として、正門の前に出られるのをいいことに、私、しばしば仕事を怠けていました。だから、お役目を取り上げられても仕方ないと思っています」

 これまでもフレッド様と話し込むことはあったけど、それでも"仕事を怠ける"というほどの時間を浪費していたわけではないので、こんなふうに自分で自分を貶める発言をするのは不本意だったが、ある程度の事実を交えた話をしなければ、きっとミシェルさんは納得しない。だから、こう言うしかなかった。
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