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第65話

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 その理屈でいくと、繁華街や表通りの大きな商店も駄目だ。そういうところは一日中人の出入りがあるから、いつ、誰が見ているとも限らない。アマンダは面倒くさがりだが、警戒心がないわけじゃないので、目立つところで毒を買ったりはしないはず。

 そして、よくよく考えてみると、恐らく行商人から毒を買うこともないんじゃないかと思う。他の地方から流れてきた行商人は、特定の場所で商売をすることはなく、居場所が日によって違う。だから案外、狙って行商人を探し出すのは面倒なのだ。

 しかも、話しかけてみるまでは取り扱っている商品の内容が分からないので、何人もの行商人に『毒はないか』と声をかけることになるから、面倒なだけではなく目立ってしまう。アマンダがそんなことをするとは思えない。もっとも、偶然行商人を発見し、その商人が、これまた偶然に毒を売っている可能性もゼロではないが……。

 まあとりあえず、そんな偶然はそうそう起こらないと仮定し、アマンダは行商人を使っていないと考える(使ってたら、もうどうしようもないし……)。さて、普段から付き合いのある商人は駄目、目立つ場所の商人も駄目、行商人も駄目となると、面倒くさがりのアマンダは、どこで毒を買うだろうか。

 完全な推論だが、町の中心部からはある程度距離のある、なるべく人気のない店を選ぶ気がする。そこなら目立たないし、アマンダのことを知る者もいないと思うので、噂も立ちにくい。

 だいたい、郊外の一歩手前あたりにある店がこれに該当するだろうか。そういう店ならば、お屋敷からそんなに遠出しなくてもいいので、自由な外出が許されていない私たちでもお使いのついでに立ち寄ることができる。

 そう。そもそも私たちは、たとえ休日でもフラフラと出歩くことを許可されていないので、遠くに行くことなどできないのだ。だから、お使いのついでに寄ることのできる中~近距離以外の商人は、調査対象から除外される。

 ただ、今まで述べてきた理屈にはけっこう穴があり、アマンダがお使いに出た時、知り合いに頼んで毒を調達してもらうなどの策を取っていた場合、すべて破綻してしまう。

 でも正直、その可能性は限りなく低いと思う。こう言ってはなんだが、攻撃性の塊であるアマンダに、下手をすれば命にかかわる謀略の共犯になってくれる友人知人がいるとはちょっと考えにくいし、何より、アマンダは基本的に他人を全て見下し、信用していない。唯一の例外はミシェルさんだけだ。

 ……そう思うと、アマンダはアマンダなりに、敬愛する人のために必死なんだろうか。私がエリナさんのために、必死に無実を証明しようとしているように。
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