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第64話

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「ブレアナ。あんた、午後から屋敷の中にいなかったでしょ。メイドの勝手な外出は厳禁だってこと、真面目くさったあんたなら知らないわけないわよね。どこに行ってたのよ」

 こんなふうに喧嘩腰で話しかけてくるのはいつ以来だろう。今となっては、苛立ちより奇妙な懐かしさを感じるが、このアマンダがエリナさんを陥れていると思うと、それ以上の憎しみを覚える。しかし、ここで事を荒立てても何にもならない。私は激しく言い返すこともなく、淡々と言葉を紡いでいく。

「フレッド様にお弁当を持って行って、その後、手伝ってほしいことがあるとおっしゃるから、一緒に町の方に行ってたのよ」

 本当は、フレッド様が私に協力してくれているわけだが、実際のところ、町の薬材商人に詳しいフレッド様を、私が手伝うような形で調査することになったので、まったくの嘘というわけでもない。

「何よそれ。いくらフレッド様でも、メイドを自由に使っていいってもんじゃないでしょ。あんたもあんたよ。勝手なことをすると、執事長代理のミシェル様が責任を問われるのよ。実際、フレッド様を手伝うなんて言って、どこかでサボってたんじゃないの?」

 サボりの常習犯であるアマンダにだけは言われたくない。それにしても"ミシェル様"か。全方位に噛みついていた狂犬アマンダが、よくもここまで心酔したものだ。面倒くさがりで、ほんの少しの手間すら惜しむアマンダが、ミシェルさんが執事長代理となってからは、ほとんどサボらず働いて……

 そこで、私の思考は一旦ストップした。

 何か、思いがけない発想が、たった今考えたことの中に含まれていた気がしたのだ。目の前では、アマンダがいまだにぎゃあぎゃあと喚いているが、私は、私の心の内に集中し、真剣に考える。そして気がついた。私は『面倒くさがりで、ほんの少しの手間すら惜しむアマンダ』という部分に引っかかりを覚えたのだ。

 能力そのものは優秀なのに、とてつもなく面倒くさがりのアマンダ。これまでも『どうしてそんなところで手を抜くんだろう』と思うことがしょっちゅうあった。あの怠け癖は、アマンダの生来の性質というか、彼女の人格の本質的な部分である気がする。

 ならば、その怠け癖は、エリナさんを陥れようとする謀略の際にも顕在化するはずだ。もっと具体的に言うとアマンダは、面倒な商人とは取引をせず、なるべく簡単な相手から毒を手に入れようとするはずである。

 では『面倒な商人』とは何だろう。ちょっと考えただけでも、いくつか思いつく。まず第一に、大公家と普段から取引のある商人は駄目だ。『なんでこんなものが欲しいんだ』と聞かれると面倒だし、後になって『あの子、この前うちの店で毒を買ってましたよ』なんて誰かに伝えられたら、別の意味で面倒なことになる。
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