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第60話
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ここまで話をして、私とフレッド様の脳裏に浮かんだ真犯人の顔はほぼ間違いなく同一人物――つまり、ミシェルさんである。エリナさんに罪を着せることで、ミシェルさん以上に得する利害対立者など存在しないからだ。しかし……
「私がまず思い浮かんだのはミシェルさんですけど、たぶん……って言うか、絶対違いますよね」
「そうだな。狡猾なミシェルが、こんな浅はかでリスキーなことをするはずがない。エリナの利害対立者として、一番に疑われるのもわかりきっているしな。少なくとも、実行犯じゃないのは間違いない。ただ……」
「ただ?」
「誰かをそそのかすくらいのことはしたかもな。最近、使用人たちが少しずつエリナになびき始めていたから、一見平静を装っているように見えて、ミシェルの奴も、相当焦ってたと思うんだよな」
「焦り……ですか」
「ああ。ミシェルの最大の強みは、使用人たちの支持を集めてるってところだから、その強みがじわじわ薄れていくのは、真綿で首を絞められるような気分だったろうな。それで、ちょいとばかし危ない橋を渡る気になったとしても、全然変じゃない」
「その"危ない橋"っていうのが、誰かをそそのかして、エリナさんをおとしいれることなんですね。でも、いったい誰を? いくらミシェルさんが皆に好かれているとはいえ、大公様に毒を盛ることを承諾する人なんて、そうそういるとは思えません。罪が明らかになれば、良くて長期の禁錮刑。悪ければ死刑なんですから」
「そうだ。だから、もしもこんな馬鹿なことをやる奴がいるとしたら、『自分なら誰にもバレずにやり遂げられる』と考えている自信家で、なおかつ、ミシェルの絶大な信奉者だろうな。それも、病的なくらいの」
「自信家で、なおかつ、ミシェルさんの病的な信奉者…………あっ」
「どうした?」
「……フレッド様。一人だけ、心当たりがあります」
今私の述べた"心当たり"とは、アマンダのことだった。ただの思いつきと言えばそれまでだが、あの自信にあふれた攻撃的な性格と、ミシェルさんへの心酔ぶり、そして行動力抜群で仕事が早いことを考慮すると、アマンダ以外にこんなことをしでかす者などいないと、なかば確信めいた思いすらわいてくる。
私はその思いを、素直にフレッド様に伝えた。
「なるほど、屋敷内でも色々と悪名高いアマンダか。確かにあいつならやりかねないな。だが結局のところ、証拠がなければエリナを救うことは不可能だろう。"あやしい"という疑いだけでは、アマンダを真犯人だと決めつけることはできないしな」
「私がまず思い浮かんだのはミシェルさんですけど、たぶん……って言うか、絶対違いますよね」
「そうだな。狡猾なミシェルが、こんな浅はかでリスキーなことをするはずがない。エリナの利害対立者として、一番に疑われるのもわかりきっているしな。少なくとも、実行犯じゃないのは間違いない。ただ……」
「ただ?」
「誰かをそそのかすくらいのことはしたかもな。最近、使用人たちが少しずつエリナになびき始めていたから、一見平静を装っているように見えて、ミシェルの奴も、相当焦ってたと思うんだよな」
「焦り……ですか」
「ああ。ミシェルの最大の強みは、使用人たちの支持を集めてるってところだから、その強みがじわじわ薄れていくのは、真綿で首を絞められるような気分だったろうな。それで、ちょいとばかし危ない橋を渡る気になったとしても、全然変じゃない」
「その"危ない橋"っていうのが、誰かをそそのかして、エリナさんをおとしいれることなんですね。でも、いったい誰を? いくらミシェルさんが皆に好かれているとはいえ、大公様に毒を盛ることを承諾する人なんて、そうそういるとは思えません。罪が明らかになれば、良くて長期の禁錮刑。悪ければ死刑なんですから」
「そうだ。だから、もしもこんな馬鹿なことをやる奴がいるとしたら、『自分なら誰にもバレずにやり遂げられる』と考えている自信家で、なおかつ、ミシェルの絶大な信奉者だろうな。それも、病的なくらいの」
「自信家で、なおかつ、ミシェルさんの病的な信奉者…………あっ」
「どうした?」
「……フレッド様。一人だけ、心当たりがあります」
今私の述べた"心当たり"とは、アマンダのことだった。ただの思いつきと言えばそれまでだが、あの自信にあふれた攻撃的な性格と、ミシェルさんへの心酔ぶり、そして行動力抜群で仕事が早いことを考慮すると、アマンダ以外にこんなことをしでかす者などいないと、なかば確信めいた思いすらわいてくる。
私はその思いを、素直にフレッド様に伝えた。
「なるほど、屋敷内でも色々と悪名高いアマンダか。確かにあいつならやりかねないな。だが結局のところ、証拠がなければエリナを救うことは不可能だろう。"あやしい"という疑いだけでは、アマンダを真犯人だと決めつけることはできないしな」
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