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第54話

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 そんな私の弱気を感じ取ったのか、フレッド様はあえてそれ以上強い言葉を述べることはなく、優しく、慰めるように言ってくれた。

「そうだな。すべて、俺の考えすぎかもしれない。だいたい、ミシェルがどんな策謀家でも、これ以上何かできるものでもないしな。それでももし、何かあったとしたら俺に言え。俺に付き従う私兵団は、屋敷内の使用人たちとは別管轄だ。ミシェルが無茶をする気なら、私兵たちを使ってでも止めてやるよ」

 もちろん、私兵団が出張らなければならないような血なまぐさいことが起こるだなんて思ってはいないが、それでも頼もしい言葉だった。元気を取り戻した私は微笑し、フレッド様に頷いたのだった。





 大公様の強いお言葉もあり、使用人たちは皆、表向きはエリナさんに従っている。しかし、エリナさんと使用人たちの間には、これまで以上に強固な壁が作られてしまった。ミシェルさんがエリナさんに尽くせば尽くすほど、その不満の壁は大きく、厚くなり、誰もが白い目でエリナさんを見て、遠くに離れていく。

 だから必然的に、エリナさんから離れていかない私が、結果的に最もエリナさんに近い者ということになり、執事長直属のメイド的な存在となった。そのため、皆の白い目は、エリナさんだけではなく、しばしば私にも向けられたが、それほど苦痛ではなかった。だって、エリナさんも私も、間違ったことをしているわけではないから。

 不当とも言える裁定で、自分たちの支持するミシェルさんが執事長になれなかった皆の気持ちは理解できるし、大公様に主張を伝えるためのストライキだって、決して愚かな行為だったとは思わない。しかし、その反対行動も、こうも長引くと、だんだん幼稚な駄々に見えてくる。

 エリナさんが、執事長としてまったく能力がないとか、怠けているとか、そういう人だったなら、いつまでも反対するのもわかる。だが、エリナさんはこれ以上ないほど勤勉で、言葉は足りないものの、皆のことを考えて、適性、仕事量共に最適な配分で割り振っている。

 その優しさに目を向けようともせず、いつまでもミシェルさんを担ぎ上げようとするのは馬鹿げている。……ある日、エリナさんと二人で経理の仕事をしている最中に、私はその思いを、丸々口に出してしまった。最近一緒にいることが多いので、以前より随分とエリナさんに気安くなっていたのだ。

 それでも、現在の仕事に直接関係ない無駄話ではあるので、エリナさんに『口より手を動かしなさい』と言われるかと思ったが、意外にもエリナさんは、仕事の手を止めて静かに語り始めた。

「……皆が不満に思うのも無理ないわ。実際、いつも言葉の足りない私より、コミュニケーション能力に優れているミシェルの方が、執事長にふさわしいもの」

「…………」
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