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第53話

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「……そうかもしれません。アマンダは、今でもかたくなにエリナさんを無視していますし、あの優しいローラですら、今回の成り行きには少し納得がいっていない様子ですから」

「ミシェルはどうだ? 今回のことが一番気に入らないのはあいつだろう」

「それが、その。不気味なくらいにいつも通りなんです。いえ、いつも以上に朗らかで優しいかもしれません。エリナさんの指示もよく聞いて、精いっぱいの補佐をして、それを見て皆、ますます苛立ってます。これほど人格的にも能力的にも優れたミシェルさんが、どうして執事長になれないのかって……」

 一つ目のサンドイッチをぺろりと平らげ、二つ目に手をつけながら、フレッド様はぼそりと言った。

「やっぱり怖いな、あいつ」

「えっ?」

「お前はミシェルを慕ってるから、前に話した時はあれこれとごまかしたんだが、ハッキリ言って、俺はあいつのこと、どうも信用できないんだよ。皆に優しく、誰にでも好かれ、やることなすことすべて完璧。ほの暗い部分が一切ない。……そんな人間、いかにも作り物っぽいというか、嘘臭くってな」

 以前の私ならたぶん、今のフレッド様の言葉に、烈火のごとく怒っただろう。しかし、つい先日垣間見たミシェルさんの素の部分を思うと、フレッド様の洞察力に感心し、自分の見る目のなさにため息を漏らすことしかできなかった。

 私が特に反論してこないので、フレッド様はさらに語り続ける。

「今回のストライキは、ミシェルが皆に命令してやらせたわけじゃない。そんなことをしたら、後で全使用人を扇動した責任を問われるからな。実際、何の証拠もない。……だが、発案者はミシェルだろう。普段から使用人たちの心を掴み、懐柔してあるあいつなら、造作もないことだ」

 フレッド様は喋りながら、両手を軽く広げて、操り人形を弄ぶかのようなジェスチャーをして見せた。

「『私が執事長になれるように、皆で抗議のストライキをして』だなんて馬鹿で露骨な頼みをしなくても、使用人たちの前で憔悴した様子を見せるとか、ほんの少し感情を揺さぶってやるだけで、皆が義憤に駆られて自発的に行動するようにしたんだ。これなら、計画が失敗しても、その罰が自分に及ぶことはない」

「…………」

「で、父上の一喝で計画は失敗し、すべてを諦めるかと思ったら、そんなことはないようだ。文句ひとつ言わずエリナに従い、誰よりも甲斐甲斐しく尽くすことで、さらなる不公平感を演出し、皆の怒りを煽ってるんだよ。たぶんな」

「で、でも、完全に大公様の裁定を受け入れて、納得したからエリナさんに従ってるのかもしれませんし……」

 私は、心にもないことを言った。……そう。私自身も、フレッド様の言っていることが正しいと分かっている。だって先日、『私はこの結果を受け入れるつもりはない』と述べたミシェルさんの瞳には、その言葉通り、執念の炎が煌々と揺らめていたから。
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