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第50話

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 今度こそ、私の返答を求めるようにミシェルさんはじっとこちらを見た。……ミシェルさんの生の激情を受け、混乱の極みにある私ができることは、先程と同じく、心の内を正直に話すことだけだった。

「ミシェルさんの気持ちも知らずに、無神経なことを言ってしまってごめんなさい。私、ミシェルさんは完璧な人格者だから、そんなふうに悩んでるだなんて、想像もしていませんでした」

「そう。いい機会だから覚えておきなさい。この世に完璧な人格者なんていないのよ。人格者のふりをしてる狡猾な人間は山ほどいるけどね。私も、人格者の仮面をかぶって使用人たちに好かれるようにしてるだけ。その方が色々と便利だからね。それより質問に答えて。今でも、私よりエリナの方が執事長にふさわしいと思うの?」

 私は黙った。答えは決まっている。そして、その答えはミシェルさんの望まないもの。だから、すぐに言葉を返すことができなかった。しかし、いつまでも沈黙しているわけにもいかず、静かに、だけどハッキリと言う。

「はい」

「どうして?」

「基本的な理由は、さっき言ったのと同じですが、実はそれだけじゃないんです。ミシェルさんは今、『出来得る限りの人気取りをして、ほぼすべての使用人の支持を取り付けた』って言いましたよね。エリナさんは選挙を前にしても、淡々といつも通りの業務を丁寧にこなすだけでした。それで私、質問してみたんです」

「何を?」

「『ミシェルさんは積極的に選挙運動的なことをしてるのに、エリナさんは何もしなくてもいいんですか?』って。そしたら、エリナさんは言いました。『私が執事長にふさわしいなら選ばれるし、そうでないなら選ばれない。それだけのこと。だから私は、いつも通りの仕事をするだけ』だって……」

「…………」

「私は、地位に固執する人より、そういう人の方が執事長にふさわしいと思います。積極的に執事長の地位を目指したミシェルさんを非難するわけではありませんが……」

「…………」

「先程ミシェルさんは、エリナさんが大公様の特別な寵愛を受け、それで上級メイドにしてもらった卑しい人だと言いました。あるいは、エリナさんが特別扱いを受けているのは本当なのかもしれません。でも、それだけじゃなく、エリナさんには執事長になる十分な実力があることも、ミシェルさんならわかるはずです。だから……」

 これらの答えで、ミシェルさんがさらに激昂する可能性があると覚悟していたが、意外にもミシェルさんは平然としていた。感情をある程度吐き出したことで、気持ちが落ち着いてきたのかもしれない。
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