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第47話
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一応、建前として、誰が誰に投票したかを見ても聞いてもいけないということになっているが、所詮建前は建前、投票後、皆すぐにワイワイと噂話を始め、開票前の時点で、おおよその結果を知ることができた。
やはりというか、圧倒的多数票を集めたのは、コミュニケーション能力が高く、ほとんどの使用人に好かれているミシェルさんである。
アマンダなどは、最近ではミシェルさんの完全な信奉者と化しており、『こんな選挙、時間の無駄でしょ。コミュ障のエリナより、ミシェル様の方がトップにふさわしいに決まってるじゃない』と大声で騒ぎ立てる始末である。ローラもきっと、いつも優しく面倒を見てくれるミシェルさんに投票したのだろう。
私もミシェルさんのことは好きだ。……だけど、今回はエリナさんに投票した。ミシェルさんに比べて、獲得票数が少ないであろうエリナさんに同情したからとか、そういうわけではなく、一応ちゃんとした理由がある。
使用人を統括する執事長は規律を重んじるべきであり、ミシェルさんみたいに友達のような距離感の人より、エリナさんのように一歩引いた立場の人の方が向いているんじゃないかと思ったのだ。
そして、エリナさんに足りないコミュニケーション能力を、ミシェルさんがそばで補うのが一番良い形だとも思ったのである。人柄の良いミシェルさんなら、執事長という地位に上り詰めることにも、別段固執していないだろうし……。
ただ、私の思惑がどうであれ、ほとんどの使用人たちの支持を集めたのはミシェルさんであり、その結果はすぐ大公様に報告された。だが大公様は、投票結果などまったく意に介さず、次のように宣言した。
「次の執事長はエリナとする! ミシェルはその補佐をするように!」
その言葉に、使用人たちは恐らく、みんな頭の中で『何のための選挙だったんだろう』と思ったに違いない。しかし、大公家の役職任命権は当然大公様のものであり、その大公様の鶴の一声で決まったのだからどうしようもない。
エリナさんはいつも通りの無表情。ミシェルさんもまた、いつも通りの優しい微笑みを浮かべ、拍手までして「おめでとう。大公様の信任厚いあなたが執事長なら安心ね」とエリナさんをたたえていた。
流石はミシェルさんだ。選挙で圧倒的支持を集めていたのに、いきなり結果が逆転したら、普通なら冷静じゃいられないはず。なのにこの潔い態度。結局のところ、この二人なら、どちらが執事長になっても良かったのだと思う。人格的にも能力的にも優れた二人を見て、私もこんな上級メイドになりたいという思いはさらに強くなった。
だから私は、自然にニコニコと笑っていた。あれ以来大公様に寝室に呼ばれることもないし、日々の仕事も勉強も順調で、いつか本当に上級メイドになれると信じていた。なんだか、すべてが良い方向に進んでいるような気がして、本当に能天気に笑っていた。……ほんの少し先の未来に、とんでもないことが起こるとも知らずに。
やはりというか、圧倒的多数票を集めたのは、コミュニケーション能力が高く、ほとんどの使用人に好かれているミシェルさんである。
アマンダなどは、最近ではミシェルさんの完全な信奉者と化しており、『こんな選挙、時間の無駄でしょ。コミュ障のエリナより、ミシェル様の方がトップにふさわしいに決まってるじゃない』と大声で騒ぎ立てる始末である。ローラもきっと、いつも優しく面倒を見てくれるミシェルさんに投票したのだろう。
私もミシェルさんのことは好きだ。……だけど、今回はエリナさんに投票した。ミシェルさんに比べて、獲得票数が少ないであろうエリナさんに同情したからとか、そういうわけではなく、一応ちゃんとした理由がある。
使用人を統括する執事長は規律を重んじるべきであり、ミシェルさんみたいに友達のような距離感の人より、エリナさんのように一歩引いた立場の人の方が向いているんじゃないかと思ったのだ。
そして、エリナさんに足りないコミュニケーション能力を、ミシェルさんがそばで補うのが一番良い形だとも思ったのである。人柄の良いミシェルさんなら、執事長という地位に上り詰めることにも、別段固執していないだろうし……。
ただ、私の思惑がどうであれ、ほとんどの使用人たちの支持を集めたのはミシェルさんであり、その結果はすぐ大公様に報告された。だが大公様は、投票結果などまったく意に介さず、次のように宣言した。
「次の執事長はエリナとする! ミシェルはその補佐をするように!」
その言葉に、使用人たちは恐らく、みんな頭の中で『何のための選挙だったんだろう』と思ったに違いない。しかし、大公家の役職任命権は当然大公様のものであり、その大公様の鶴の一声で決まったのだからどうしようもない。
エリナさんはいつも通りの無表情。ミシェルさんもまた、いつも通りの優しい微笑みを浮かべ、拍手までして「おめでとう。大公様の信任厚いあなたが執事長なら安心ね」とエリナさんをたたえていた。
流石はミシェルさんだ。選挙で圧倒的支持を集めていたのに、いきなり結果が逆転したら、普通なら冷静じゃいられないはず。なのにこの潔い態度。結局のところ、この二人なら、どちらが執事長になっても良かったのだと思う。人格的にも能力的にも優れた二人を見て、私もこんな上級メイドになりたいという思いはさらに強くなった。
だから私は、自然にニコニコと笑っていた。あれ以来大公様に寝室に呼ばれることもないし、日々の仕事も勉強も順調で、いつか本当に上級メイドになれると信じていた。なんだか、すべてが良い方向に進んでいるような気がして、本当に能天気に笑っていた。……ほんの少し先の未来に、とんでもないことが起こるとも知らずに。
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