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第46話

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 大公家の上級メイドになれば、給料は今の数倍以上。雇用契約も更新され、すべての給料を実家に送るだなんて馬鹿な決まりも白紙になり、自分の力でお爺ちゃんとお婆ちゃんを養うことができる。だから、死に物狂いでそれを目指さなきゃいけない。少しでも憐れみのお金を貰ってしまったら、その闘志が消えてしまう。

 ほんのわずかでも、もらえるものはもらっておけと思う人もいるだろうが、そのわずかなお金で闘志が萎えてしまうことの方が、私にはよっぽど恐ろしかった。

 エリナさんは少し考え、やっと納得がいったという感じで頷いた。

「……そうね。確かに昔の私は、どんなに働いてもまったくお金がもらえないことを逆に励みにして勉強し、早い段階で上級メイドになることができたわ。もし、誰か甘やかしてくれる人がいて、適度にお小遣いをもらっていたら、そのお金で堕落し、今の地位にはなれなかったかもしれない……」

 そこで一度言葉を切り、瞳も閉じたエリナさんは、再び目を開いて語り続ける。

「親切なつもりで、余計なことをしたみたいね。ごめんなさい、ブレアナ。理由も言わず、喜ぶに違いないと勝手に決めつけてお金を渡したりして。今となっては、自分の押しつけがましさが恥ずかしいわ」

 私は、慌てて首を左右に振った。

「そんな。こちらこそ、生意気なことを言ってすみません。でも、エリナさんの気持ちは本当に嬉しいです。それに……」

「それに?」

「エリナさんと、こんなに話せたのは初めてですから、なんだか感動しました」

 その言葉で、エリナさんは我に返ったかのように顔をそむけた。

「な、何を言っているの。……だけど、そうね。確かに今日は少し喋りすぎたわ」

「いつもこれくらい喋ってくれてもいいのに」

「好きじゃないのよ、話すのが。得意でもないし」

「そんなことないと思いますよ。さっきも全然よどみなく言葉がスラスラ出てましたし、エリナさんの声は透き通るみたいで綺麗ですから、もっと喋らないともったいないです」

「お世辞はやめて」

 だんだんと口数が減り、それに従って、徐々に表情から感情が消えていき、いつものエリナさんに戻っていくのが分かる。それがなんだか寂しかったが、今日はエリナさんの心のうちにある優しさを改めて感じることができ、とても意義深い一日だった。





 それからしばらくして、とうとう大公家の次期執事長を決める選挙がおこなわれることになった。いつか述べた通り、対象者は上級メイドのエリナさんとミシェルさん。大公家の全使用人が二人のどちらかに投票し、その結果を踏まえ、大公様が最終的に執事長を任命するという形である。
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