47 / 83
第46話
しおりを挟む
大公家の上級メイドになれば、給料は今の数倍以上。雇用契約も更新され、すべての給料を実家に送るだなんて馬鹿な決まりも白紙になり、自分の力でお爺ちゃんとお婆ちゃんを養うことができる。だから、死に物狂いでそれを目指さなきゃいけない。少しでも憐れみのお金を貰ってしまったら、その闘志が消えてしまう。
ほんのわずかでも、もらえるものはもらっておけと思う人もいるだろうが、そのわずかなお金で闘志が萎えてしまうことの方が、私にはよっぽど恐ろしかった。
エリナさんは少し考え、やっと納得がいったという感じで頷いた。
「……そうね。確かに昔の私は、どんなに働いてもまったくお金がもらえないことを逆に励みにして勉強し、早い段階で上級メイドになることができたわ。もし、誰か甘やかしてくれる人がいて、適度にお小遣いをもらっていたら、そのお金で堕落し、今の地位にはなれなかったかもしれない……」
そこで一度言葉を切り、瞳も閉じたエリナさんは、再び目を開いて語り続ける。
「親切なつもりで、余計なことをしたみたいね。ごめんなさい、ブレアナ。理由も言わず、喜ぶに違いないと勝手に決めつけてお金を渡したりして。今となっては、自分の押しつけがましさが恥ずかしいわ」
私は、慌てて首を左右に振った。
「そんな。こちらこそ、生意気なことを言ってすみません。でも、エリナさんの気持ちは本当に嬉しいです。それに……」
「それに?」
「エリナさんと、こんなに話せたのは初めてですから、なんだか感動しました」
その言葉で、エリナさんは我に返ったかのように顔をそむけた。
「な、何を言っているの。……だけど、そうね。確かに今日は少し喋りすぎたわ」
「いつもこれくらい喋ってくれてもいいのに」
「好きじゃないのよ、話すのが。得意でもないし」
「そんなことないと思いますよ。さっきも全然よどみなく言葉がスラスラ出てましたし、エリナさんの声は透き通るみたいで綺麗ですから、もっと喋らないともったいないです」
「お世辞はやめて」
だんだんと口数が減り、それに従って、徐々に表情から感情が消えていき、いつものエリナさんに戻っていくのが分かる。それがなんだか寂しかったが、今日はエリナさんの心のうちにある優しさを改めて感じることができ、とても意義深い一日だった。
・
・
・
それからしばらくして、とうとう大公家の次期執事長を決める選挙がおこなわれることになった。いつか述べた通り、対象者は上級メイドのエリナさんとミシェルさん。大公家の全使用人が二人のどちらかに投票し、その結果を踏まえ、大公様が最終的に執事長を任命するという形である。
ほんのわずかでも、もらえるものはもらっておけと思う人もいるだろうが、そのわずかなお金で闘志が萎えてしまうことの方が、私にはよっぽど恐ろしかった。
エリナさんは少し考え、やっと納得がいったという感じで頷いた。
「……そうね。確かに昔の私は、どんなに働いてもまったくお金がもらえないことを逆に励みにして勉強し、早い段階で上級メイドになることができたわ。もし、誰か甘やかしてくれる人がいて、適度にお小遣いをもらっていたら、そのお金で堕落し、今の地位にはなれなかったかもしれない……」
そこで一度言葉を切り、瞳も閉じたエリナさんは、再び目を開いて語り続ける。
「親切なつもりで、余計なことをしたみたいね。ごめんなさい、ブレアナ。理由も言わず、喜ぶに違いないと勝手に決めつけてお金を渡したりして。今となっては、自分の押しつけがましさが恥ずかしいわ」
私は、慌てて首を左右に振った。
「そんな。こちらこそ、生意気なことを言ってすみません。でも、エリナさんの気持ちは本当に嬉しいです。それに……」
「それに?」
「エリナさんと、こんなに話せたのは初めてですから、なんだか感動しました」
その言葉で、エリナさんは我に返ったかのように顔をそむけた。
「な、何を言っているの。……だけど、そうね。確かに今日は少し喋りすぎたわ」
「いつもこれくらい喋ってくれてもいいのに」
「好きじゃないのよ、話すのが。得意でもないし」
「そんなことないと思いますよ。さっきも全然よどみなく言葉がスラスラ出てましたし、エリナさんの声は透き通るみたいで綺麗ですから、もっと喋らないともったいないです」
「お世辞はやめて」
だんだんと口数が減り、それに従って、徐々に表情から感情が消えていき、いつものエリナさんに戻っていくのが分かる。それがなんだか寂しかったが、今日はエリナさんの心のうちにある優しさを改めて感じることができ、とても意義深い一日だった。
・
・
・
それからしばらくして、とうとう大公家の次期執事長を決める選挙がおこなわれることになった。いつか述べた通り、対象者は上級メイドのエリナさんとミシェルさん。大公家の全使用人が二人のどちらかに投票し、その結果を踏まえ、大公様が最終的に執事長を任命するという形である。
225
お気に入りに追加
967
あなたにおすすめの小説
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす
初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』
こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。
私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。
私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。
『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」
十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。
そして続けて、
『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』
挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。
※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です
※史実には則っておりませんのでご了承下さい
※相変わらずのゆるふわ設定です
ボロボロになった心
空宇海
恋愛
付き合ってそろそろ3年の彼氏が居る
彼氏は浮気して謝っての繰り返し
もう、私の心が限界だった。
心がボロボロで
もう、疲れたよ…
彼のためにって思ってやってきたのに…
それが、彼を苦しめてた。
だからさよなら…
私はまた、懲りずに新しい恋をした
※初めから書きなおしました。
【完結・全7話】妹などおりません。理由はご説明が必要ですか?お分かりいただけますでしょうか?
BBやっこ
恋愛
ナラライア・グスファースには、妹がいた。その存在を全否定したくなり、血の繋がりがある事が残念至極と思うくらいには嫌いになった。あの子が小さい頃は良かった。お腹が空けば泣き、おむつを変えて欲しければむずがる。あれが赤ん坊だ。その時まで可愛い子だった。
成長してからというもの。いつからあんな意味不明な人間、いやもう同じ令嬢というジャンルに入れたくない。男を誘い、お金をぶんどり。貢がせて人に罪を着せる。それがバレてもあの笑顔。もう妹というものじゃない。私の婚約者にも毒牙が…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる