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第40話

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 そんな私に、ジェームス様は小声で言う。

「その白い衣装、よく似合っています。美しいですよ」

 こんな時に、何を言うのか。
 私は嫌味を込め、彼と同じように微笑して囁いた。

「生贄の死に装束にしては悪くないでしょう?」

 その言葉にジェームス様はニヤリと笑い、そして去っていった。……ただ一人、大公様の寝室の前に残される私。薄暗い照明に照らされた白装束の私は、生贄の羊だった。メェと鳴いて、このままどこかに消えてしまいたくもあるが、もちろんそんなことはできないし、するつもりもない。

 だから、覚悟を決めてドアをノックした。

「大公様、ブレアナ・リースです」

 思ったよりは落ち着いている声が出て、自分で驚く。ここに来るまで、ジェームス様とよく喋っていたことが功を奏したのかもしれない。しばらくの沈黙の後、室内から声が返って来た。

「入りなさい」

 それは、か細い老人の声だった。私は「失礼します」と言い、静かに入室する。部屋の中は、廊下よりもなお暗く、明かりらしきものは窓から差し込む月の光だけ。だがそれでも、ベッドの上で横たわり、上半身だけを起こしている大公様の姿を確認するには十分な明るさだった。

 大公様は、声から感じた印象の通り、か細い老紳士だった。……正直、意外である。もっとギラついた、いかにも"女好き"という感じの脂っこい貴族様を想像していたのだが、目の前にいる大公様は、そういうイメージとは真逆だ。まあ、趣向がどうあれ高貴なお方なので、どんな時でも品は失わないものなのかもしれない。

 完全なる静寂の中、大公様がこちらを見て呟いた。

「どうした。ワシの顔が、そんなにめずらしいかね」

 そう言われて初めて、入室してからずっと無言で大公様の容姿を確認していた自分の無礼さに気がつき、慌てて謝罪の言葉を述べる。

「も、申し訳ありません。こうしてお目通りが叶ったのは、初めてのことだったので、つい……」

「ん。そうか。どうにも最近疲れがちでな。お前を呼ぶのが随分と遅れた。さあ、もっと近くに寄りなさい」

「はい……」

 とうとうこの時が来てしまった。私はもう、考えるのをやめることにした。機械になろう。感情をゼロにし、指示されたことに、ただ従うだけの機械に……

「かけなさい」

 かけなさい? これまでにないほど緊張しているせいか、言葉の意味がすぐに理解できず、少し考える。この状況で、何をかけろと言うのだろう? 困ったように立ち尽くす私に、大公様は首をかしげ、ほとんど同じ言葉を繰り返した。

「そこにかけなさい」

 そして、ベッドの端を指さす。そのジェスチャーで、やっと理解できた。『かけなさい』とは『腰かけなさい』――つまり『そこに座りなさい』とうことだったのか。
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