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第39話

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「前回のアマンダは大遅刻で、前々回のローラも参上がやや遅れましたからね。さすがに三度も続けて遅刻となれば、私が父上に怒られますので」

「私がどこかで道草を食い、だらだらと参上を引き延ばすとでも?」

「まさか。あるいは"本物のブレアナ"なら、そういうこざかしい真似をすることも警戒しなければならなかったでしょうが、あなたはしっかりとした覚悟を持ってここまで来た娘です。つまらない小細工などしないと信じていますよ。何よりあなたは、友達のローラを裏切るような真似はしないでしょうからね」

 まったくもってその通りだが、自分の心を見透かされているようで、少しだけ嫌な気分になった。その不快感が伝わったのか、ジェームス様は、今度はしっかり足を止め、こっちを振り向いた。

「そんな嫌そうな顔をしないでください。これでも私はあなたを尊敬しているんですよ。こうして先導しているのは、あなたを監視するためではなく、敬意の表れです。何かのパレードなどで、騎士が英雄を先導しているのを見たことがありませんか? あれと同じです。ふふふ、自分のことを騎士などと言う気はありませんが」

「尊敬? 私を?」

「この前、あなたたちの部屋で話をした後、シンシア・リースとブレアナ・リース姉妹、そしてその親族関係について、詳しく調査をさせてもらいました。それで、あなたがどういった理由で身代わりになることを選んだのか、よく分かりましたよ」

「…………」

「正直言って感動しました。この世の中は、たとえ親兄弟の命がかかっていても、自分の身に災いが降りかかれば逃げ出すような人間ばかりなのに、あなたは数えるほどしか会ったことのない祖父母のために、その身を犠牲にすることを選んだんですからね。これは、なかなかできることではありません」

「そうですか。……私としても、ジェームス様が『身代わりの秘密』を誰にも話さないでいてくれていることには感謝しています。今回、こうして大公様に呼ばれることになって、何とも複雑な気分ですが」

「そんなに身構える必要はありませんよ。父上は優しいお方。素直に従っていれば、すぐに終わります。さあ、いつまでもこうして止まっているわけにはいきません、行きましょうか」

 気楽に言ってくれる。こっちの気持ちを知ってか知らずか、ジェームス様はどこか楽しげにすら見える。まったく、なんて人だろう。たったいま述べた通り、秘密をしゃべらないでいてくれることはありがたいが、やっぱり、この人とは馬が合いそうにない。

 そして私たちは、静かに、本当に静かに歩き続け、大公様の寝室の前に到着した。ジェームス様は「ここから先はお一人でどうぞ」と微笑み、入室を促す。私はゴクリと唾を飲み、豪奢なドアの前に立った。
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