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第37話

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 私は相変わらず無言のまま、首をかしげてフレッド様の瞳を見た。それで、何か覚悟らしきものが決まったのか、フレッド様は一度息を吐いて語りだす。

「もしかしたら、ぬか喜びになるかもしれないから黙っておこうかとも思ったんだが、やっぱり言うことにするよ。……前にも何度か、一ヶ月近くたっても呼ばれない娘がいたんだが、その娘たちは皆、一度も父上の顔を見ることなくメイドとして勤め、任期を終えて大公家を去っていったんだ」

「えっ……」

「つまりだな。お前はもう、父上に呼ばれない可能性が高いってことだ」

 それは、本当に思ってもみなかった話だった。私は上ずった声で尋ねる。

「え、えっと、私、何か大公様の機嫌を損ねてしまったんでしょうか?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。俺には父上の考えはさっぱりわからんからな。あるいは、単にお前のことを忘れているだけなのかもしれない」

「…………」

「でも正直、俺はホッとしてるよ。父上がお前に……その……なんだ、手を出すなんて、気分が悪いからな。そもそも、大公がその地位を利用して領民の娘を手籠めにするなんて、許されることじゃない。そういう意味では、拒否する意思がなかったアマンダはともかく、ローラはかわいそうだった。息子として本当に申し訳なく思う」

 申し訳ないというのなら、それは私も同じだった。ローラがそんな目に遭ったのに、私だけが無事で済むなんて、許されるのだろうかとも思う。しかし心は正直で、もう大公様の寝室に呼ばれることがないかもしれないと思うと、気持ちがグッと軽くなる。そんな自分の現金さを、私は恥じた。

「だが、父上の愚行も、ともすれば今回で最後になるかもな。父上もお歳だ。もう若い娘を追い回すより、自らの健康の方が気になってくるころだろう。いつも早く寝て、寝室に人を呼ぶ機会が激減しているのがその証拠さ」

「そういえば、誰もが『大公様はもうお歳だ』と言ってますが、フレッド様もジェームス様もお若いですね。お年を召された方の長男次男なら、普通は40歳くらいだと思うんですけど、お二人ともどう見ても二十代前半ですよね?」

「ああ。俺もジェームスも、父上が年を取ってから生まれた子だからな。それまでどんなに励んでも子宝に恵まれなかったそうだから、俺が生まれた時は、それはもう嬉しかったらしい。だから俺は、徹底的に甘やかされた。その結果、待望の跡取り息子は立派な馬鹿息子になり、今は罰を受けてこのザマってわけだ」

「もう。すぐ自虐するんですから」
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