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第35話

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「いや、そんなことはない。ミシェルのやつ、相変わらずやるもんだなと思ったよ。あいつはトラブルを抱えてる奴を懐柔し、取り込むのが上手いからな」

「『懐柔し、取り込むのが上手い』って、なんだかトゲのある言い方ですね。まるで、手なずけて利用するみたいじゃないですか。荒れ放題だったアマンダがひとまず落ち着いて、みんな喜んでるんですよ」

「おっと、すまんすまん。また俺の悪い癖が出た。別に他意はないんだが、どうしてもひねた言い方をしてしまうんだよな。実際、ミシェルは凄いメイドだと思うよ。もともとは大きな商家の娘で、子供の頃から色々な英才教育を受けてるから、なんでも万能にこなせるしな。まあ、逸材ってやつだ」

 私は頷いた。

「でも、ミシェルさんの一番凄いところは、高い能力じゃなくて、その人柄だと思います。フレッド様はさっき、トラブルを抱えてる人を懐柔するのが上手いって言いましたけど、ミシェルさんは明るくて優しい太陽みたいな人ですから、精神的な問題を抱えている人の心を素直にさせられるんです。決して懐柔してるわけじゃありません」

 最後は、ちょっと責めるような言い方になってしまった。なので、フレッド様は苦笑して両手を振る。

「おいおい、もう勘弁してくれよ。変な言い方して悪かったってば。正直言うとな、ああいう完璧超人みたいな人間には、どうもコンプレックスを感じてしまうんだよ。だから、自然とトゲのある言い方になったのかもな」

「大公様の長男ともあろう高貴なお方が、他人にコンプレックスを感じることなんてあるんですか?」

 私の不躾な問いに、フレッド様はいかにも心外といった感じで大げさに肩をすくめた。

「そりゃあるさ。特に俺は、問題だらけの人間だからな。父とも弟とも関係は悪く、放蕩生活の罰として、いつまでもいつまでも実家の門を守り続ける生活だ。毎日、思い悩むことばかりだよ。俺はこのまま門番として生き、出来の良い弟――ジェームスが家を継いだ方が、大公家にとっては良いことなのかもなって、よく思うのさ」

「い、いきなりそんな、重い話をしないでくださいよ」

「お前が聞いたんだろうが」

 拗ねたようにそういうフレッド様が少し可愛くて、私は微笑みながら言う。

「あ、でも、ジェームス様の方が優秀だとしても、フレッド様の方が確実に勝ってるところ、ひとつありますよ」

「なんだ?」

「なんて言うか、凄く話しやすいんです。気兼ねせずに何でも喋れるっていうか……。ジェームス様は内面が複雑で、何を考えているかよくわからないところがありますから……」
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