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第33話

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「そ、そんなことないと思うけど。ローラは自分で思ってるより芯が強いと思うわよ。大公様に呼ばれた後も、それまでと全然変わらずにメイドの仕事をこなしてるし。……正直なところ、私が大公様の寝室に呼ばれたら、その後、いつも通りにやっていけるか自信がないわ。これまでの価値観が全部変わってしまいそうで」

 本当に、正直な気持ちだった。今、私がメイドとして向上心を持って働けるのは、自分なりの自尊心があるからだ。それが、一度でも大公様に夜伽を命じられ、慰みものにされたら、もうどんな仕事も手につかなくなるような、そんな気さえする。

 心情を吐露し、俯いた私に、今度はローラが首を左右に振って言う。

「買いかぶりよ、ブレアナ。私は外面も内面も弱い、泣き虫ローラ。あなたがいつも庇ってくれなかったら、アマンダにもっとひどくいじめられて、とっくの昔にここを逃げ出してた。大公様に呼ばれた後も普通に働けてるのは、別に私が強いからじゃないの、あの夜、私は……」

「待ってローラ。大公様の寝室で何があったか語るのはルール違反だわ。その話はここまでにしておきましょう。しつこいようだけど、どこで誰が聞いてるか分からないからね」

「そ、そうね。ごめんなさい。私、つい……」

 その時、いきなり部屋のドアが開いた。アマンダが帰って来るには早すぎるし、ジェームス様が戻って来たのだろうか? やっぱり、ローラの話を止めて正解だった。大公様の寝室でのことを話していたのがバレたら、ルール違反で何かしらの罰を受けるところだった。

 そう思って訪問者を見た私は驚いた。入って来たのはジェームス様ではなく、苦い顔をしたアマンダだったからだ。おかしい。アマンダが出て行ってから、まだ三十分ちょっとしかたっていないはず。ついさっきも思ったが、帰って来るには早すぎる。

 アマンダは私やローラのことなど気にもせず、華やかな白い衣装を脱ぎ散らかし、そのまま自分のベッドにもぐりこんだ。その後は、何の音もしない。あの苦い表情から察するに、静かに怒っているのか、それとも泣いているのか、あるいはすべてを忘れて寝てしまったのか。

 これは推測だが、やはりジェームス様が言っていた通り、大公様は年若い娘が派手な化粧をすることを好まず、おまけに遅刻してきたアマンダに対し、激しく叱責だけして、後は何もしなかったんじゃないだろうか? そうでもなければ、こんなに早くアマンダが戻って来たことの説明がつかない。

 その結果は、大公様のお気に入りになって成り上がることを夢見ていたアマンダにとっては、痛恨の極みだろう。私とアマンダの仲はハッキリ言って最悪だが、夢破れた彼女のことを思うと、ただ純粋に哀れだった。
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