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第29話

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 私はジェームス様を真似るように肩をすくめ、苦笑しながら言う。

「アマンダは、自分をより良く見せようとして、お化粧に時間をかけていましたから」

 どこから手に入れてきたのか、高そうな化粧品で入念に準備を整えたアマンダは、娼婦さながらの鮮やかな顔立ちになっていた。私にはわからないが、派手好きな男の人にはああいった化粧が受けるのかもしれない。

「そうですか。無駄なことを」

「無駄?」

「父上は年若い娘が派手な化粧をすることを好みません。それに、時間の使い方を軽く見ている相手を信頼しません。化粧にかまけて参上が遅れたとなれば、きっと気分を害されるでしょうね」

 今ジェームス様が述べたことが真実ならば、まさしくアマンダは、一生懸命に無駄な努力をしていたことになる。アマンダには散々嫌味を言われたが、それでもウキウキと大公様の寝室に出向く準備をしていた彼女のことを思うと、なんとなく哀れな気がした。

 だから私は、少しだけジェームス様を責めた。

「お化粧にかまけて参上が遅れたことは言い訳しようがないですけど、大公様が派手な化粧をした娘を好まないのなら、最初からアマンダに教えてあげれば良かったのに。出発した後になって『無駄なこと』だなんて。これじゃまるであの子が道化みたいじゃないですか」

 私の言葉が意外だったのか、ジェームス様は小さく首を傾げる。

「おや。あなたがアマンダを庇うようなことを言うとは意外です。いつも反目しあっていますし、彼女が恥をかけばいい気味でしょう?」

「そういう気持ちがまったくないかと言われれば、きっと、多少はあるんだと思います。アマンダには色々と酷いことを言われましたし。……でも、あの子は大公様に気に入られようと必死で、そのための努力は真剣でした。その真剣な努力を無駄だって嘲笑うのは嫌なんです」

「嫌いな相手を思いやれるとは、なかなか情の深いことですね。きっとあなたは、父上に好かれますよ。父上は誠実で心優しい娘を好みますからね。もっとも、あなたの場合、表向きはやや攻撃的で、優しさは心の奥に隠れがちな気もしますが」

 何か引っかかる物言いだった。
 私は、その引っかかった部分を独り言のように繰り返す。

「誠実で心優しい娘が好み……」

「どうかしましたか?」

「あの、誠実で心優しい娘が好みなら、どうして私やアマンダのように底意地の悪い娘を連れてきたんですか? 身辺調査で私たちの性格は分かってたでしょう?」

「そうですね。しかし、父上は気の強い娘も好きですからね」

 だとしたら、今度はローラを連れてきたことに納得がいかない。ローラは誠実で心優しい娘なので、大公様の好みの第一条件にはバッチリ合致するが、『気の強い娘』とは完全に対極にある子だ。
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