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第28話
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だから私は、殊更にアマンダに言い返さず、微笑して呟いた。
「そうかもしれないわね」
こういった私の態度もアマンダにとっては癇に障るらしく、いつもなら『余裕ぶってんじゃないわよ』と突っかかって来るのだが、今日は、初めて大公様の寝室に呼ばれたことで高揚しているのか、余裕の笑みを浮かべて「ふん」と鼻で笑うだけだった。アマンダは、次にローラの方を向いて言う。
「あんたも最初に呼ばれたっきり全然お声がかからないし、もう二度と呼ばれることはないんじゃない? そりゃそうよね。あんたみたいにかまととぶった女がもてはやされるのは最初だけ。大したことはできないんだから、すぐに飽きられるは当然。男はねぇ、私みたいに……」
歓喜の渦の中にいるアマンダを馬鹿にする気はないが、長くなりそうなので私は口を挟んだ。
「ねえ、アマンダ。ジェームス様が『寝室でのことは、今後話題にすら出してはいけません』って言ってたでしょ? これ以上はアウトになる可能性があるんじゃない?」
「おっと、そうだったわね。だいたい、いつまでもあんたたちなんかに構ってる暇はないわ。今日! この時から! 私の栄光への道が始まるんだから!」
まるで歌劇舞台みたいに華々しく宣言するアマンダ。そのまま踊るようにドアの前に行き、最後にこちらへ振り返って、ニッコリと笑う。
「そうだそうだ! 大公様に気に入られて、明日から私だけ別室待遇になるかもしれないし、今のうちにお別れの言葉を言っておくわね! あんたたちみたいなのとこの狭苦しい三人部屋に押し込まれて、この二週間は最悪だったわ! それじゃあね、負け犬たち! あはははははは!」
バタン!
部屋が揺れるほど大きな音を立ててドアが閉められ、やっと静寂が戻ってきた。
「ご機嫌ねぇ……。今アマンダが言った通り、本当にあの子だけ別室待遇になってくれれば、少しは落ち着いて過ごせるようになるんだけど」
そう言ってローラに苦笑いをすると、ローラも困ったような笑みを浮かべた。それから5分ほどして、ドアがノックされる。扉の向こうから聞こえてきたのは、ジェームス様の声だった。
「まだですか、アマンダ。大公様がお待ちです。早くしなさい」
扉越しでも聞こえるように、私は少し大きな声を出す。
「ジェームス様。アマンダなら、ついさっき出発しました」
それからドアが開き、ジェームス様は室内をぐるりと見渡して、アマンダがいないことを確認すると、小さく肩をすくめた。
「どうやら行き違いになったようですね。それにしても、ローラといいアマンダといい、あなたたちは呼ばれたらすぐ来るということができないのですか? 恥ずかしがり屋のローラはともかく、寝室に呼ばれるのを待ち焦がれていたアマンダは、声がかかれば飛んで来ると思っていたのですが」
「そうかもしれないわね」
こういった私の態度もアマンダにとっては癇に障るらしく、いつもなら『余裕ぶってんじゃないわよ』と突っかかって来るのだが、今日は、初めて大公様の寝室に呼ばれたことで高揚しているのか、余裕の笑みを浮かべて「ふん」と鼻で笑うだけだった。アマンダは、次にローラの方を向いて言う。
「あんたも最初に呼ばれたっきり全然お声がかからないし、もう二度と呼ばれることはないんじゃない? そりゃそうよね。あんたみたいにかまととぶった女がもてはやされるのは最初だけ。大したことはできないんだから、すぐに飽きられるは当然。男はねぇ、私みたいに……」
歓喜の渦の中にいるアマンダを馬鹿にする気はないが、長くなりそうなので私は口を挟んだ。
「ねえ、アマンダ。ジェームス様が『寝室でのことは、今後話題にすら出してはいけません』って言ってたでしょ? これ以上はアウトになる可能性があるんじゃない?」
「おっと、そうだったわね。だいたい、いつまでもあんたたちなんかに構ってる暇はないわ。今日! この時から! 私の栄光への道が始まるんだから!」
まるで歌劇舞台みたいに華々しく宣言するアマンダ。そのまま踊るようにドアの前に行き、最後にこちらへ振り返って、ニッコリと笑う。
「そうだそうだ! 大公様に気に入られて、明日から私だけ別室待遇になるかもしれないし、今のうちにお別れの言葉を言っておくわね! あんたたちみたいなのとこの狭苦しい三人部屋に押し込まれて、この二週間は最悪だったわ! それじゃあね、負け犬たち! あはははははは!」
バタン!
部屋が揺れるほど大きな音を立ててドアが閉められ、やっと静寂が戻ってきた。
「ご機嫌ねぇ……。今アマンダが言った通り、本当にあの子だけ別室待遇になってくれれば、少しは落ち着いて過ごせるようになるんだけど」
そう言ってローラに苦笑いをすると、ローラも困ったような笑みを浮かべた。それから5分ほどして、ドアがノックされる。扉の向こうから聞こえてきたのは、ジェームス様の声だった。
「まだですか、アマンダ。大公様がお待ちです。早くしなさい」
扉越しでも聞こえるように、私は少し大きな声を出す。
「ジェームス様。アマンダなら、ついさっき出発しました」
それからドアが開き、ジェームス様は室内をぐるりと見渡して、アマンダがいないことを確認すると、小さく肩をすくめた。
「どうやら行き違いになったようですね。それにしても、ローラといいアマンダといい、あなたたちは呼ばれたらすぐ来るということができないのですか? 恥ずかしがり屋のローラはともかく、寝室に呼ばれるのを待ち焦がれていたアマンダは、声がかかれば飛んで来ると思っていたのですが」
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