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第27話

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「5~6年、ですか……」

 やはり、甘くはない道のようだ。エリナさんはわずか1年で上級メイドになったというが、それは、特例中の特例なのだろう。

 ミシェルさんは、自らの過去を振り返るように言う。

「私は15歳の時にこのお屋敷に奉公に来て、上級メイドになるまで5年かかった。覚えることが多くて大変だったわ~。特に異国の言葉を何種類も勉強しなきゃいけないのがきつかったわね。日中はメイドの仕事があるから、本格的に勉強できる時間が取れるのは夜だけだし」

「メイドの仕事に、異国の言葉が関係あるんですか?」

「関係大ありよ。大公様ともなれば、異国の客人をお屋敷に招くことも多々あるからね。その応対をする上級メイドは、日常会話はもちろん、歴史や経済に関する言葉もしゃべれなければいけないから、異国の言葉を完璧にマスターしておく必要があるの。あと、場合によっては、通訳みたいなことをすることもあるわ」

「なるほど……。違う国の言葉を完璧に覚えようと思ったら、当然長い時間がかかりますよね。確かに、最低でも5~6年はかかりそうですね……」

「あなたみたいに、大公様に呼ばれてこのお屋敷に来た子たちは、だいたい三年で親元に帰ることが許されるわ。その時、ほとんどの子はメイドを辞めて普通の生活に戻っていく。あなたに強い意志があるのなら、三年後に申し出るのね。『ここでメイドを続けていきたい』って」

 私は頷いた。こういうことを話していると、自分が何の目的でこのお屋敷に連れてこられたのかを忘れて、普通のメイドとして向上心を抱くことができて幸せだった。

 ……だが、それから一週間後。私は自分が"普通の"メイドではないことを思い出した。日中の仕事で疲れ切った夜10時。今度はアマンダに対し、寝室に来るよう、大公様から呼び出しがあったのである。

「とうとう来たわね、この時が。いい加減待ちくたびれたわ」

 いつぞやのローラと同じく、大公様からお呼びがかかったとき専用の白い衣装に身を包んだアマンダは、私に勝利の視線を送り、勝ち誇った表情で笑う。

「ふふふっ、残念ねぇ、ブレアナ。最初に私が予想した通り、やっぱりあんたはさ、一度も大公様に呼ばれることなく、雑用ばっかり押し付けられるただのメイドでおしまいになるみたいよ。このお屋敷に来てから二週間もたつのに、大公様にお目通りすら叶わないんだからね。あんた、忘れられてるんじゃないのぉ? ふふふっ」

 アマンダ本人は私を徹底的に侮辱しているつもりなのだろうが、『ただのメイド』でいたい私にとって、それは希望の言葉だった。確かに、二週間もたっているのに一度も呼ばれないのは少しおかしい。もしかしたら大公様は、本当に私のことなど忘れているのかもしれない。そう思うと、少し元気が湧いてきた。
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