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第26話

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「ただいま戻りました」

 昼下がりになって、私はお屋敷に帰還した。

 体力はある方だと思っていたが、お使いに行って帰ってくるまでに約三時間強歩いたので、さすがに足が重たい。大公様へお出しするお茶の用意をしていたエリナさんは、私を一瞥して「そう」とだけ呟くと、何事もなかったかのように自分の仕事に戻る。

 普段ならこれ以上話さないのだが、フレッド様から色々とエリナさんのことを聞いたせいもあって、今日はなんとなく、あと少しだけ話がしてみたくなり、私はもう一度声をかけた。

「エリナさん。フレッド様への傷薬の配達は、滞りなく完了しました。負傷していた私兵の方は、すぐに治療してもらっていましたよ」

「そう」

「えっと、この地図、魔物よけの護符も兼ねているそうですね。それで、その、これ、とても高価で貴重な物なんですよね。そんな良いものを持たせてくれて、ありがとうございます」

「そう」

 やはりというか、何を話しかけても『そう』以外の言葉が返ってこない。フレッド様の話で、エリナさんが誠実な人であることは分かっているのだが、こうもそっけない態度を取られると、どうしても人間味を感じられず、『そう』としか喋らない機械を相手にしているような気になってくる。

 だからなのか、私は少し突っ込んだ質問をしてしまった。

「……あの、エリナさんも私と同じで、大公様の意思でこのお屋敷に連れてこられたというのは本当ですか?」

 エリナさんは仕事の手を休めず、こちらも見ず、事も無げに言う。

「そうよ」

 やっぱり、本当の話だったのか。ほんのわずかな違いとはいえ、返事が三文字に増え、『そう』以外の言葉が返って来たことに気を良くした私は、さらに質問を続ける。

「私も努力すれば、エリナさんのように上級メイドになることができるでしょうか?」

「さあ」

 また二文字に戻ってしまった。自分の予想や、こちらを勇気づける意図など一切ない『さあ』という返答は、そっけなさすぎて、逆に清々しいくらいだ。

 そんな時、背後から朗らかな声が聞こえてくる。

「ちょっとエリナ。いくらなんでも『さあ』ってことないでしょ」

 振り返ると、ミシェルさんが苦笑していた。ミシェルさんは私の肩を、優しくポンと叩いて「お使いご苦労様」といたわりの言葉をかけてくれる。それから、すぐ続けて私に問いかけてきた。

「ブレアナ、あなた、上級メイドになりたいの? それなら、5~6年は徹底的にメイドの修行をすることを覚悟しなきゃね」
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