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第25話

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 ちょっと前までの私なら、エリナさんに似ていると言われても嬉しくはなかったと思うが、今はとても嬉しかった。それで照れくさくなり、ちょっとひねくれたことを言ってしまう。

「人身売買同然に連れてこられた私と、大公家の由緒正しい上級メイドのエリナさんじゃ物が違いますよ」

「そうか。お前、知らないんだな」

「えっ?」

「エリナもお前と同じで、父上の意向で連れてこられた娘の一人なんだよ」





 お使いからの帰り道。私はフレッド様から教えてもらったエリナさんの出自について、ずっと考えていた。エリナさんは今から5年前に、大公様の意思で大公家に連れてこられた娘の一人だったそうだ。当時から寡黙だったが、その優秀さは群を抜いており、わずか1年でメイトたちを統括する上級メイドになったという。

 今でこそ上級メイドはエリナさんとミシェルさんの二人だが、当時はエリナさんが一人ですべてのメイドを完璧に管理していたというから、それだけで彼女の能力の高さがよくわかる。

「知らなかった……そんなの……」

 私は歩きながら、誰に言うでもなく呟いた。まあ、エリナさんは無駄話どころか軽い雑談にすら応じてくれないので、知らなくて当然なのだが。

 私も努力次第で上級メイドになれるだろうか。もちろん、エリナさんのように1年でなれるとは思わないが、一生懸命勉強して、5年、6年と時間をかければ、いつかは……

 大公家の上級メイドは、ただの使用人とはわけが違う。身分的には平民以上、貴族未満といった感じになり、領内の人々から一目置かれ、給金だって多い。

 ……その多額の給金さえあれば、私はブレアナの身代わりになんかならなくても、自分の力で祖父母を養うことができる。その時、大公様に暴露するのだ。私の家族たちが、身代わりを立てて大公様を欺いたことを。そうすれば、卑怯者たちにはそれ相応の罰が与えられるだろう。

 もっとも、大公様が領民に暴力的な刑罰を与えたという話はまったく聞かないので、ブレアナたちに大した痛手は与えられないかもしれないけど。……それでもいつか、あの卑怯者たちに報いを受けさせたい。優しかったお母様を侮辱し、私を『卑しい血』と蔑んだことを、どうしても許せない。

 それは、メイドとして忙しく過ごす中でしばらく忘れていた、ほの暗い憎しみの感情だった。低劣で嫌な気持ちだが、消し去ることのできない感情だった。私は胸の中で怒りの種を育てるようにしながら、一歩ずつ道を踏みしめ、お屋敷への帰路についたのだった。
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