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第21話

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 意外な言葉だった。
 素直に喜びたいところだが、ちょっと信じられない。

「それが本当なら嬉しいですけど……」

「なんだ、信じられないのか?」

「だって、エリナさんは私とほとんど口をきいてくれませんし……。思い切って話しかけても、『ええ』と『そう』と『この会話に何か意味があるの?』しか言ってくれませんから、嫌われてるとまではいかなくても、好かれてはいないと思います」

 エリナさんに冷たくあしらわれたことを思いだし、ションボリしながら言う私を見て、フレッド様は吹き出した。

「エリナは誰に対してもそうだよ。大公家の長男である俺にもな」

「ええっ?」

「もちろん、ちゃんとした問いには完璧に答えてくれるが、雑談をしようとすると『はい』と『そうですか』と『この会話に何か意味があるのですか?』しか言わなくなる。人によって態度を変えないんだから、ある意味究極の正直者だよ、あいつは」

 確かに。接する相手によって態度を変えることは、本心を隠し、自分を偽る行為とも言える。そういう意味では、高貴なる方が相手でも振る舞いをまったく変えない人間は、誰に対しても嘘をつかない正直者だということになるのか。

「ああいう人間が一番信用できるんだ。上辺だけ愛想のいい八方美人なんかよりもな。……おっと、いつまでもこんなことを話している場合じゃなかった。魔物討伐で、すでに何名か怪我人が出てるんだ。この薬、早速使わせてもらうぞ」

 フレッド様はそう言いながら薬の包みを開ける。それからお供の私兵たちを呼んだ。彼らの腕や頬には生々しい裂傷がある。魔物の鋭い爪か牙でつけられたものだろう。フレッド様は軟膏状の薬を指に取り、自ら彼らの傷口に塗ってあげていた。

 その光景は主従の関係というより、家族や友人をいたわっているようで、私は驚いた。貴族――それも大公様の長男が、その手が生傷から溢れた血にまみれるのもいとわず、配下に薬を塗ってあげるなんて。

 そんな私の驚きを感じ取ったのか、フレッド様は治療を続けながら、こちらを一瞥して言う。

「こいつらは皆、俺に怪我をさせないために率先して前に出て傷ついたんだ。薬を塗る程度のことでその忠義に報いることができるとは思わないが、それでもせめて、これくらいはやらなければな。……さあ、塗り終わったぞ。エリナの薬はよく効くから、数時間で傷はふさがるだろう。少し横になって休んでいろ」

 指示を受けると私兵たちは頭を下げ、野営地のテントの中に入っていった。今言われた通り、静かに体を休めるのだろう。
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