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第20話

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 近づいていく私に気がついたのか、フレッド様は軽く右手を上げて微笑した。

「よう。どうしたんだ、ブレアナ。こんなところまで来て」

 前に一度話しただけなのに、彼が私の名前をおぼえていたことに少し感心する。……本名のシンシアではなく、憎たらしいブレアナの名であることが、何とも複雑な気分だが。

 私は、メイドとして教育を受ける中で習った礼法通りに丁寧な礼をし、前口上を述べ、エリナさんから預かった包みを差し出した。

「ご機嫌麗しゅうございます、フレッド様。上級メイドのエリナさんから薬を預かり、持ってまいりました。どうぞ、ごあらためください」

 自分ではなかなか上等な振る舞いができたと思うが、フレッド様は苦笑した。

「これはまた、あの生意気娘が随分としおらしくなったもんだな。まるでいっぱしの大公家のメイドだ」

 そのからかうような言い方にちょっとムッとして、私は早々に『いっぱしの大公家のメイド』の仮面を脱ぎ捨て、『生意気娘』として反論する。

「"まるで"ではなく、これでも私はちゃんとした大公家のメイドです。まだ教育を受けて日が短く、修行中の身ですが、任された仕事はミスなくやり遂げていますし、先輩方からも少しずつ信頼されるようになってきているんですよ?」

「怒ったのか? 悪かったよ。どっちかって言うと褒めたつもりだったんだがな。皆、俺が褒めると馬鹿にされてると思うのかムッとするんだよな。言い回しが悪いのかな? どう思う?」

 フレッド様は、心から不思議そうにそう言った。どうやら、本当に私をからかう意図はなかったらしい。ならばこちらも矛を収めよう。私も彼のように苦笑し、穏やかに言う。

「褒めるなら、"まるで"とか"いっぱしの"とか余計な言葉をつけずに、素直に『ちゃんとした大公家のメイドになった』って言ってほしかったです」

「でも、そんな普通のいい方だったら面白くないだろう?」

「面白くなくても、変に相手の神経を逆なでするよりずっとマシです」

「なるほどな、おぼえておこう。それにしても、大公家に連れてこられて一週間かそこらで遠出のお使いを頼まれるとは、本当に信頼されてるんだな。特に、あのエリナが新入りに荷物を任せるなんて、相当めずらしいことだぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。あいつは自分にも他人にも厳しい目を向けているからな。勝手に荷物をあらためたり、怠けて道草をするような奴には絶対お使いなんてさせない。少なくとも、お前は決してそんなことをしない人間だとエリナに認められてるってことだ」
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