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第19話

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「いいんですか? 魔導具だなんて、こんなすごいものを貰って……」

「だから、安物だってば。危ない場所に行くあなたの身の安全を考えるのは、上級メイドとして当然の事よ。本当は、お使いを頼んだエリナがこういうことも考えなきゃいけないんだけど、まあ、あの性格だからね。でも、あの子のこと、嫌いにならないであげてね」

 ミシェルさんの気遣いが、グッと身に染みる。本当のお母様が亡くなってから、実家でずっとぞんざいな扱いを受けてきたので、こんなふうに身を案じてもらうと、思わず瞳が潤みそうになる。だが、この場で泣き出してしまうのはさすがに恥ずかしいので、私は頭を下げ、今度こそ本当に、大急ぎでお使いに出発した。





 エリナさんから貰ったメモを開き、目的地を確認する。……メモに書かれていたのは簡単な地図で、目的地の具体名は記されていなかった。自分が向かうべき場所がどこなのか分からないのは少々不安だが、とりあえず地図に従って歩き出す。

 地図そのものは、たったいま述べた通りとても簡単――というか、無駄な記載が全くない簡略化されたもので、見ようによっては子供が書いた宝探しの地図のようですらある。しかし、三十分ほど歩いたところで、この簡略化された地図が、非常に優れたものであることに私は気がついた。

 この地図は無駄な記載をなくし、要点だけをしぼっておくことで、見る者が余計な情報に惑わされることなく、迷わず最短のルートで目的地に着けるようになっているのだ。この辺りの地理を完全に把握し、なおかつ地図を見る者の心理も考えていなければ、とてもこんな地図は書けないだろう。

 さすがエリナさんだ。ミシェルさんと違い、他のメイドたちから慕われてはいないが、その能力の高さは誰もが認めるところである。でも、二人の能力がほぼ互角だとしたら、次の執事長に選ばれるのは恐らくミシェルさんだ。他の使用人たちからの人望があまりにも違いすぎる。まあ、最終的に決定するのは大公様だけど。

 そんなことを考えながら歩き続け、出発から約一時間半で目的地に到着した。場所はやはり、ミシェルさんが予想した通り、大公様のお屋敷の西方にあるバナの森だった。フレッド様はここで、私兵を率いて魔物退治をしているとのことだが……。

「あっ」

 思わず、小さな声が出た。森の入り口にあたる部分に簡単な野営地があり、そこでちょうど甲冑を脱ぎ、軽装で休憩しているフレッド様を発見したからだ。

 良かった。最悪の場合、魔物がいるという森の中に入ってフレッド様を探さなければいけないと思っていたので、そういう事態にならずにお使いが済みそうで一安心である。ミシェルさんに貰った護身用の魔導具の出番もなさそうだ。
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