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第18話

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 いわば、二人はたった一つしかない使用人たちのトップの座を争うライバルなのだが、ミシェルさんは今のように、まったくエリナさんと争う気などない温和な態度でよく彼女に話しかけていた。だが、エリナさんは……

「話は終わったわ。それじゃ」

 このように、ミシェルさんと目を合わすこともなく、雑談に応じることもない。もっとも、彼女は誰に対してもこうなのだが。

 すたすたと立ち去ってしまったエリナさんの背を見送りながら、ミシェルさんは困ったような、寂しそうな笑顔で言う。

「もう。昔からずっとこうなんだから。私はあの子のこと、友達だと思ってるけど、あの子は私のこと、いったいどう思っているのやら」

 そして、今度は私の方を見て言う。

「それ、傷薬の包みね。向かう場所は、きっと西方にあるバナの森よ」

「そうなんですか?」

「ええ。領民たちから要請があって、フレッド様は今、そこで魔物退治をしているの。大公家の私兵を何人か率いてね」

「フレッド様がどうしてそんなことを? 門番じゃないんですか? いえ、そもそも大公家の長男が門番をしてること自体、変なんですけど……」

 私の問いに、ミシェルさんは苦笑した。

「そうね。まあ、色々理由があるのよ。話してあげたいけど、私ごときがフレッド様の置かれている状況についてぺらぺら喋るのは、メイドとしての分を超えた行為だと思うから、おしゃべりはここまでにしましょう、ごめんね」

 まさにミシェルさんの言う通りで、自分の仕える大公家の噂話をみだりに話さないのは当然のことだ。さすがは上級メイドである。

 それに、軽率にフレッド様のことを尋ねた私は、本来なら叱られてもおかしくないのに、『おしゃべりはここまでにしましょう、ごめんね』という柔らかい態度で話を切り上げるコミュニケーション能力。こういうところが、ミシェルさんが皆に好かれる所以だった。

 私は自分から謝罪し、速やかにお使いに出ることにした。

「いえ、私こそ失礼なことを話題に出してすみませんでした。早速お使いに行ってきます」

 そして駆けだした私を、ミシェルさんが引き留める。

「待って。バナの森についてから、すぐにフレッド様たちと合流できるか分からないから、念のためにこれを持っていきなさい」

 と言って、小さな飴玉のようなものを一つ渡される。

「これは?」

「炎の魔法の力が込められた、護身用の魔導具よ。安物だけどね。もしも魔物と遭遇してしまったら、それを投げつけなさい。目くらましくらいにはなるから、その隙に一目散に逃げるのよ」
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